コムデギャルソンはパリでの21年春夏コレクション発表を見送り、東京でフロアショー形式で新作を披露した。たくさんの目の柄のドレス、モノクロの熊の連続柄のドレス、いずれもビニールの透明な布が重ねられる。重厚なサテンにのせられたミッキーマウスやミニーマウスの柄は可愛さ弾ける顔ではなく、どこかシリアスだったり顔を重ねて抽象柄となったり。そして、やっぱりビニールをかぶせて光と造形を重ねていく。ミステリアスな目を重ねたドレスは、背中のプリーツの影にグラフィティーアートが隠されている。トワル地とキルティング地が透けて見えるビニールドレス、ボーンの立体的なトワルドレスに重ねたビニールドレス、いずれもクチュールテクニックの造形服をビニールが包み込む。
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ミッキーマウスやミニーマウスをわかりやすくキャッチーに使わずに、あえて抽象的に見せてビニールの影に隠すこと、グラフィティアートの放つエネルギーをプリーツの影に隠すこと。見えづらくなることで、見えた瞬間にハッとさせられる。その感覚が、不思議と服の持つ秘めた力を感じた瞬間のように思えてくる。折り紙のように畳んだ黒い生地をつなげたアブストラクト(抽象)なフォルムのドレス、それは完璧な抽象を作り出すために計算し尽くしたもの。そして、きらめくビニールを重ねることで、下のドレスの重厚さが際立ってみえる。コロナ禍においても、アブストラクトな造形をしっかりとした質感で作り上げるコムデギャルソンの物作りの確かさを感じたコレクション。テーマは「不協和音」。「クチュール的な雰囲気と相反するビニール、その不協和音がポジティブなエネルギーを生む」と川久保玲。
(小笠原拓郎、写真はブランド提供)
ピンクのリボンの迫力ドレス
ノワール・ケイ・ニノミヤ
ノワール・ケイ・ニノミヤもフロアショー形式で21年春夏コレクションを見せた。
暗闇の中にわずかな光とともにブラックドレスが現れる。丸いビーズをつなげてボーンのようになったドレスと生花のヘッドピースが重なって、生命の躍動感を感じさせる。オーガンディのフリルとチェーンの重なるドレスがなぜかグロテスクな感情を呼び起こす。黒のスタイルに続くのはピンクのテープやリボンのドレス。ピンクのリボンというと甘くスウィートな雰囲気を想像するかもしれない。しかし、二宮啓の作るピンクのドレスは全く甘くはなく、テープを重ねた造形のフォルムが生々しさや迫力を運んでくる。リボンやテープの形状は様々で、それによって造形のフォルムも見え方も変わる。テープから花が揺れるドレスもあれば、リボンが重なり構築的なフォルムを描くドレスもある。透明なビーズの球をつないだドレスは、セロファンが重なり合うような透明感。クリスタルパーツのような立体が突き刺さるドレスは歩くとクリスタルの光が優しく揺れる。服を縫うのではなくハンドクラフトで作る造形ドレスは二宮の独自のスタイル。特に今シーズンは、製品化するのが大変なものばかりのように思える。手仕事のもつ迫力を感じながら、このコレクションピースがどの程度、量産に乗せられるのかが気にかかる。
(小笠原拓郎、写真はブランド提供)
ディスコスタイルに秘めたパターンへのこだわり
ジュンヤ・ワタナベ
ジュンヤ・ワタナベは、プレゼンテーション形式で21年春夏コレクションを披露した。たくさんのマネキンが着る新作は、きらびやかなスパンコールに彩られる。その横にはモデルたちが着用する映像が写され、ドナ・サマーのディスコヒットが流れている。大胆なイメージチェンジと思われた80年代のディスコスタイルは、よく見ると渡辺淳弥らしい新しいパターンへの挑戦が秘められている。スパンコールのコクーンドレスやドレープブラウスは、純粋にその流れるようなフォルムで見せるもの。しかし、スリーブレスジャケットやライダーズジャケットは下に着たドレスとくっついたワンピースでできている。春夏は裾を折り返すテクニックで、ワンピースでありながら二つのアイテムを重ねているように見せるというデザイン。コートの裾を折り返してもう一着のコートを上から重ねるようなアイテムもある。キャッチーできらびやかなディスコスタイルを標榜しながら、物作りへの新しい挑戦も忘れない。イメージチェンジに見えてとても渡辺らしいコレクション。
(小笠原拓郎、写真はブランド提供)