■キャバレー初取材
パリのキャバレー御三家といえば、モンマルトルのムーランルージュ、ジョルジュサンクのクレージーホース、そしてシャンゼリゼのリド。
映画にもなったフレンチカンカンの満員御礼ムーラン、「ヌードのアート」と賛辞されるクレージー。で、リドのレビューは?
その問いに答えるようにリドから、記者会見の招待状が届いた。ここで新スペクタクルが発表されるそうだ。初のキャバレーの取材に心がキラキラダンスした。
キャスティング風景 (c) Dragone
リドは2009年、仏ソデクソグループというフードサービス、ファシリティーマネージメントを中心とする多角経営の国際的大企業が買収し、同社創設者の娘で同グループレジャー&スポーツの社長、ナタリー・ベロン=スザボ氏が同会長に就任。ここから創業1928年のリドの改革がはじまる。
2003年から毎夜毎夜続いているスペクタクル/レビューを新しくする、まずはコレだ。
そして2010年に新ディレクターを募り、その中からイタリア生まれのフランコ・ドラゴンが選ばれた。フランコは、誰もが興奮してしまう「シルク・デュ・ソレイユ」の10作目までを演出した人物。2000年に自身のカンパニーを設立し、世界のショー業界で活躍している。
新スペクタクルの舞台 (c) Dragone
■会見もフツーじゃない、スペクタクル!
リドには一度足を運んだことがある。余暇ではなく仕事で。ランジェリーメゾン、仏ルジャビーの130周年のショーが3月、このリドで開かれた。
さて、今回は受付からすでに違う。
「リドへようこそ!」。すでにスペクタクルが始まっているかのようだ。
会場となったホールのステージでは、ダンサーたちが真剣にレッスンをしている。客席は、経済とファッションを中心とした蒼々たる媒体のジャーナリストたちで埋まってゆく。
ステージからダンサーたちが消え、ライトが消えた。そして暗闇から登場したのが、マダム・リド、会長だ。会長はリドの歴史から新スペクタクルについて、まるでTVのプレゼンテーターのように言葉で「披露」する。
そして本日の主役、フランコ・ドラゴンが巨大スクリーンに登場。その名が暗示するように、仕事先の中国から生出演だ。
新スペクタクルの舞台 (c) Dragone
■「世界一美しい通りでのスペクタクル、自分の夢の限界を越えたい」
客席数1100、14年度の観客数45万人、シャンパーニュ25万本、売上高3600万ユーロ。3年後に売上高30%増を目指し、新スペクタクルに2500万ユーロを投資する。
新スペクタクルの工事のため、昨年12月から3月までキャバレーを休業。同グループは、セーヌの観光船、3つ星レストランの「プレ・カタラン」、1つ星のエッフェル塔2階にある「ジュール・ヴェルヌ」、そしてルノートルを傘下に持つことから、リドにガストロノミーも取り入れる。
新スペクタクルのテーマは、「素晴らしいパリのヴォワヤージュ(旅)」。ある若い女性が自分の部屋の屋根から飛び出し、パリの魅力を発見しながらリドのレビューのスターダンサーになるというストーリー。
フランコ・ドラゴンは語る。「世界一美しい通りでのスペクタクル、自分の夢の限界を越えたい」と。LEDの大スクリーン、羽とグラマーな衣装、アールデコ、ベルエポック、ポップアートの数々の舞台、etc.「観客に忘れ難いイメージを贈る」。フランコ・ドラゴンはこう約束する。
■「グラマーを約束するよ」(衣装デザイナー、ニコラ・ヴォドゥレ)
デザイナーのニコラ・ヴォドゥレ
舞台設計家、振付師、作曲家、作詞家とフランコ・ドラゴンは一流のスタッフを揃えた。そしてステージを最高にグラマーにする衣装デザイナーに、ニコラ・ヴォドゥレを抜擢。
ニコラは、「クリスチャン・ラクロワ」のオートクチュールスタジオ、「クリスチャン・ディオール」「ルイ・ヴィトン」「ジバンシイ」で経験を積み、「ジャンポール・ゴルチエ」ではマドンナの” Confession Tour ” を担当した。
「レビューの衣装をデザインする_ クチュリエの誰もが持つ秘密のファンタスム(幻想)だよ」と告白する。彼はその昔、観客として2度ほどリドでレビューを楽しんだそうだ。だから観客が何を期待しているか、自腹を切って経験し知っている。
「このスペクタクルのために600のシルエットをデザインした。ダンサーが着ていることを忘れる衣装。素材や羽、アクセサリーについて一生懸命研究した。パリの羽細工師と、孔雀、雉、ダチョウの羽を、洗い、膨らます、艶をだすなどの加工を施した」とニコラ。
また、「オートクチュールでの長年の経験で得たパリのエスプリをこのレビューに浸したい。大胆なシック。グラマーを約束するよ」と笑顔で話す。そして出来上がったばかりの衣装のプロトタイプを披露、ダンサーと一緒にポーズを取ってくれた。
この新スペクタクルは、4月2日にデビューする。シャンゼリゼのリド、満開なるか。
舞台衣装 (c) Dragone
舞台衣装 (c) Dragone
舞台衣装 (c) Dragone
舞台衣装 (c) Dragone
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。