その人の名は
「アンシャンテ」(初めまして)の握手をした瞬間、特別な手と感じさせる人がいる。
ジャン=クロード・デイクス Jean-Claude DEHIX さんも、そんな手を持つひとり。あたたかいオーラが伝わってくるような、パワーを与えてくれるような。
そして彼自身の笑顔に、誰もが魅了される。
ジャン=クロード・デイクス_
名前はあまり知られていない。
百貨店プランタンのノエルのウィンドーを楽しませるマリオネットを創り45年、それを見る人たちみんなに喜びと幸せなシーズンを与えてくれた、まさにパリのサンタクロース、生きた伝説マリオネット師、ジャン=クロード・デイクス。68歳。
彼は魔法の手を持っている。
パリのノエルはプランタンから
欧州人にとってノエルは年間最重要伝統イベント。
この日は家族で祝う。
だから、「きっとキミは来ない♪」みたいな色恋の心配の必要はない(その辺は日本と違う)。
ノエルに限り、衣食住+プレゼント、最高の贅沢が集中する。
そのノエルのシーズンに絶対欠かせないのがプランタンのウィンドーディスプレイ。シーズン中、なんと1000万人がここへとやって来る。まさに「ウィンドーのルーヴル美術館」じゃありませんか!
これを見ることで、気分が「ノエルノエルノエル」と盛り上がってくる。これを見なきゃノエルじゃない!
ではプランタンのウィンドーで毎年何が起こるかというと_
同店のクリスマスイベントのパートナーとなるラグジュアリーメゾンのキャラクターと、プランタンのマスコットふたり、ヴィオレットとジュールのマリオネットが11ものウィンドーでそれぞれ小さなストーリーを展開します。
2011年はカール・ラガーフェルドと「シャネル」ガールズが世界のファッション都市へ旅行、12年には「クリスチャン・ディオール」を着たレディーたちのパリのノエル、13年「プラダ」のクマ、14年は「バーバリー」の木のお人形、15年はプランタン創業150周年を祝い多数のメゾンが参加、16年「ジミー・チュウ」のゴーゴーガールズ、17年「フェンディ」のマスコットと、パートナーメゾン歴も豪華ですが、マリオネットたちを生き物のように動かし、見る人に毎年驚きと感動を与え続き的たジャン=クロードさんの仕事は他に例をみない技。
師匠、最後の仕事
ジャン=クロードさんに初めて会ったのは2009年11月。
プランタンのウィンドーディスプレー制作の仕上げをしている現場を見学したときでした。
毎年夢にようなノエルのウィンドーを創るご本人に会えて、言葉にもならないほど感激した。
ジャン=クロードさんは、マリオネット師を父にもち、家族で世界中のミュージックホールをツアーしマリオネットのスペクタクルを上演してきました。
その彼が開発した電動マリオネットによる初のクリスマスウィンドーがプランタンでした。
かれこれ45年前のこと。
この電動マリオネットの技術を持っているのはデイクス家だけ。
同家がパリの全百貨店のクリスマスマリオネットウィンドーを手がけています。
数年前に引退されたジャン=クロードさんは、息子さんと娘さんに後を譲ったものの、ご自身初のウィンドーとなったプランタンだけは制作を続けてきました。
でもそれも残念ながら、今年で本当に最後。
これまでに800以上のウィンドー、6000に及ぶキャラクターを動かしてきたこのマリオネットのマエストロのお話を聞きに、最後の現場となるプランタンに会いに行きました。
「私にとって初めてのクリスマスウィンドーがこのプランタン。45年間1度も休まず、ここのウィンドーを制作してしてきました。まさにプランタンと私の美しい愛の物語ですね。
マリオネットに関しては、私の父が真の開発者。私はそれを電動へと発展させました。その初作品となったのは、ディズニーのアニメーション映画「ロビンフッド」とのタイアップで、たったひとつのキャラクターマリオネットだけ。それが上手くいき翌年から次々とキャラクターを増やしていきました。」
_たくさんのキャラクターマリオネットに命を授けてきましたね。
「ウィンドー制作はチームの仕事です。プランタンが毎年ノエルのテーマを決めて、ウィンドーのストリートボードを考える。その中で私の仕事は、9か月間の制作期間をかけてマリオネットに命を吹き込むこと。毎年パートナーメゾンから届けられたマリオネットたちと一緒に動いたり、走ったりしながら、お互いを知っていく。これがマリオネット師としての本業ですね。そこで覚えた手の動きを電動に置き換える。動かしやすいようにマリオネットのカタチを変えたり、部品を加えたり。決してキャラクターを歪めることなくね。」
_マエストロの域でも、緊張する場面や難しさがありますか。
「ウィンドースペクタクルの本番直前となる現場でのインスタレーションは、毎年とても緊張しますよ。アトリエで十分にリハーサルを積み重ねていても、「この仕事を成功させる」と自分に言い聞かせながら取り掛かります。ウィンドーでの組み立てが失敗したら9か月間の仕事が水の泡になってしまう。
そして難しいのは意外と、脇役のマリオネットたちなんですよ。今年の羊のマリオネットは2か月間のディスプレーで700km以上走るから持久力をつけてあげないとね。」
そうそう、5年前のプラダのウィンドーでのインスタレーション現場にお邪魔した時、ジャン=クロードさんが、ロープウェイやら登山でシーズン中1200km走破しなければならないクマの動きにとても苦労されていたのを思い出す。
_ジャン=クロードさんにとってノエルとは?
「私にとってノエルは仕事(笑)。自分たちの子供であるマリオネットがちゃんと動いてるかなと、いつも心配しています。自宅で家族と夕食を囲みながら、プランタンのウィンドーの前で沢山の人たちが私たちの仕事を見てくれているかと思うと、とても特別な気持ちになりますね。」
と微笑みながら話すジャン=クロードさん。シーズン中毎朝、マリオネットたちがちゃんと躾け通りに動くように11のウィンドーを巡回しています。
ノエルを仕事とし、父から継いだ職から、電動マリオネットという新しいジャンルを生んだアーティスト、ジャン=クロード・デイクス。黒子のサンタクロースとして45年間、素晴らしいノエルを見せてくれて本当にありがとう!
来年のノエルは、デイクス家3代目となる息子さんと娘さんが動かすウィンドーを楽しみにしてますよ。
2018年メインウィンドー
2018年「ハーゲンダッツ」
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。