【記者の目】課題が見えてきた進展する商社の中計 新たな収益モデルを模索 仕込み充実も効果はこれから
商社の3カ年経営計画が、17年度から始まった企業ではラストスパートに入り、前年度スタートの企業では約半分が経過した。世界のビジネスの潮流が、デジタル技術の活用やサステイナビリティー(持続可能性)を前提とした経営に大きく変わりつつある今、既存事業を進化させながら、新たな収益モデルを確立できるかが最大の課題だ。各社のこの間の打ち手と業績から中期経営計画の進捗(しんちょく)を見る。
(高田淳史=西日本編集部素材・商社担当)
伸び悩む繊維
今年度が最終年度でラストスパートに入ったのが東レインターナショナル(TI)、蝶理、ヤギなど。TIは、通常は単体業績の公表だが中計は連結で公表。比較は難しいが16年度実績(単体)は売上高5654億円、経常利益124億円、純利益91億円だっただけに前期と比べると2年間で売り上げは975億円、経常利益42億円、純利益29億円を伸ばした。中国で実績のある生地コンバーティングをベトナムなどで広げ、差別化糸を活用した生地から製品までの一貫オペレーションで機能を高める。
蝶理は、最終年度の数値目標を上方修正した。繊維事業は売上高は当初目標通りの1300億円で据え置き、経常利益は目標だった48億円から46億円に引き下げた。今第1四半期は繊維は減収減益とやや苦戦する。事業の中身では「海外販売を伸ばす」と素材、製品OEM(相手先ブランドによる生産)で活発に動く。強みの合繊原料では環境配慮を切り口に再生ポリエステルの活用や仕組み作りに注力。インドネシアではマツオカコーポレーション、ファーストリテイリング、東レとの合弁縫製工場が稼働するなど物作りと販売面で有力企業を意識した取り組みが進む。
ヤギは目標をやや下方修正した。16年度実績と比べて売り上げは伸びているが利益が思ったほど伸びていない。投資案件はタトラス、桑原と組んでリペア事業に参入したり、シタテルに出資、ツバメタオルを完全子会社にするなど再び積極的に動き出した。米国市場を攻めるため現地で新会社を立ち上げ、独自のECサイトを通じて販売するなど市場開拓でも新たな手を打っている。
公表していないが帝人フロンティアも3カ年計画が進む。好調なスポーツ・アウトドアのグローバル企業向けの機能性生地販売に加え、自動車関連では1億2500万ユーロ で独の吸音材メーカーのジーグラーを買収するなど機能素材や産業資材で大きく伸ばす。新規分野は「ウェアラブル」「ヘルスケア」「防災、減災」がテーマ。帝人フロンティアセンシングを立ち上げるなどウェアラブル、介護分野での成長を狙う。
描く絵が大きな伊藤忠
18年度にスタートした企業にとっては2年目。種まきと同時に効果が試される。「商いの次世代化」に大きく踏み出したのが伊藤忠商事。前期は約600億円投資し、フィンランドのメッツァファイバーグループとセルロース短繊維の試験工場を設立したり、山東如意グループと一緒に米ライクラに約200億円出資するなど、原料から差別化するアパレル製品でグローバル企業を攻める。デジタル切り口では、米のBtoB(企業間取引)サイト「ジョア」やフラッシュセールサイト「ミレポルテ」、クラウドファンディング「キャンプファイヤー」などに出資した。
日鉄物産繊維事業本部は、3Dスキャンの「シンボル」やEC支援のメイキップ、シタテルなどに出資し、強みの製品事業をさらに磨く。クラレトレーディングはベトナムでの縫製事業が好調で業績が伸びている。GSIクレオスは繊維事業は伸び悩むが工業製品関連では、生分解性プラスチックやプラスチック再生、ネイル分野に参入するなど環境配慮をテーマに出資、事業を広げる。田村駒は衣料品OEMの伸び悩みで思ったほど伸ばせていない。一方で家電品組み立て工場を中国で新設するなど好調な非繊維事業に積極投資する。
収益モデルの変革や新規事業、新たな分野への挑戦は一朝一夕には進まない。しかし攻めようとする欧米、中国などではビジネスの流れが大きく変わろうとしている。その変化のスピードに一部を除き立ち遅れてはいないか。既存事業で食いつなげているうちに次の時代を先取りする事業、収益モデルを確立しないと世界から取り残される。ガラパゴスで良かった時代はとうの昔に終わった。
(繊研新聞本紙8月5日付)