39丁目あたりから43丁目くらいは、特に高層ビルの建築ラッシュ
マンハッタンに「ヘルズキッチン」と呼ばれるエリアがある。通常は、34丁目から59丁目までの8番街より西を指す。「地獄の台所」などという、いかにも恐ろしい名前が付けられたのは、そこが元々ギャングが横行する極めて危険で汚い地区だったからだ。
複数のメディアによると、ニューヨークタイムズ紙がこの地区を初めて「ヘルズキッチン」と称したのは、1881年9月22日付けの新聞だったという。当時すでに犯罪多発地区だったというわけだが、私は1989年初めにヘルズキッチンでアパート探しをしたことがある。
当時は「仕事を探し始めたけど見つかっていない」状況で、貯金を切り崩して生活していたから、家賃をできるだけ抑えたかった。だからヘルズキッチンにも足を伸ばしてみたのだが、1件見ただけで女性が1人で住むエリアではないと実感。ヘルズキッチンは、私のアパート探しの候補リストから外れた。
古いアパートが残る中、林立してきた高層ビル
しかし今、私は可能ならヘルズキッチンに住んでもまったく構わない。
先日、某デザイナースブランドのショールームでPRの若い女性が、「ヘルズキッチンからウイリアムズバーグに引っ越したところなの。夜もすごくうるさくなっちゃったからね~」と言っていたのはちょっと気になるが、それさえ気にしなければ、ヘルズキッチンに住むとしたら、なんて考えるのはちょっとワクワクした気分にさえなれる。それほど、ヘルズキッチンのここ数年の変貌には目を見張るものがある。
大きな変化の1つは、高層ビルがどんどん建設されていることだ。今年5月31日付けのニューヨークタイムズに出ていた50丁目の9番街と10番街の間にできた高級コンドミニアムの全面広告を見た時は、「ヘルズキッチン、ほんとに変わったな~」とつくづく思った。
何しろ、買うとしたら一番安いユニットで435万ドルなのである!ペントハウスに至っては、最低価格が1012万5千ドルだった。
1923年から営業しているギリシャのパン屋さん。昔ながらの魚屋さんや肉屋さん、レストランもまだまだある
ヘルズキッチンの魅力の1つは、古いアパートや老舗の店がまだまだ残っていることにある。
高層ビルはどんどん増えているし、大手ドラッグストアチェーンは見かけるが、それ以外に大手チェーンが進出する気配は今のところは見られない。この状況がいつまで続くかはわからないが、新旧が混在し共存していることがヘルズキッチンを面白くしていることは間違いない。
開店に向けて工事中の、人気のコールドプレスジュースチェーンJuice Press
高級コンドと共に、ヘルズキッチンの活気を牽引しているのはレストランだ。比較的目に付くのはイタリアン、タイ、メキシコ料理だが、ドイツ、フランス、エクアドル、インド、ブラジル、エチオピア、ベルギーなど、まるで料理の万国博覧会状態なのである。
Arianaというアフガニスタン料理のレストランで食事したことがあるが、結構美味しかった。ワインバーもちらほら見かけるし、クラフトビールを揃えた店、エスプレッソバー、ビーガンのレストランもある。
Ariaの予約は4人から。料理はなんでも美味しく、コーヒーも美味しい
ヘルズキッチンのレストランは、選択肢が豊富な上に値段が比較的手頃なところが多い。2ヶ月前にオープンしたイタリアンのAriaは、本音を言うとあまり教えたくない超お勧めレストラン。何を食べても美味しく、値段は手頃でサービスもいい。向かいにあるBriciolaと同じ系列で、メニューはまったく同じだ。
ラーメンブームが始まってからできたTotto Ramen1号店の前には、いつも大勢の人だかりができている
日本食も、ラーメンの一風堂が2号店をオープンしたり、焼き鳥の鳥心が移転してきたりして、増殖中だ。しかし、ヘルズキッチンのようなちょっと不便でイメージのよくなかったエリアでも和食レストランがいけると思わせた先駆者は、Totto Ramenだ。
52丁目の9番街の近くにあるTotto Ramen1号店の前では、大勢のお客が順番を待つ姿が連日見られる。Totto Ramenはそこから徒歩3~4分のところにも新たにレストランをオープンしたが、そこも大盛況だ。
老舗店で知名度も高いAmy’s Bread
老舗に新しい動きも出てきている。23年前からある著名なパン屋さん兼カフェのAmy’s Breadは最近、隣にPantry by Amy’s Breadをオープンした。そこではグルメ食材や惣菜と共に、オリジナルの粉を初めて売り出した。
8月21日にオープンしたばかりのPantry by Amy’s Bread
Amy’s Breadがオリジナルの粉を売り出すのは、創業以来初めて
マンハッタンにフードコートが増えてきているが、このヘルズキッチンにもフードコートが2つできて、そちらも人気がある。
1つは、13年秋に11番街にオープンしたGotham West Market。高層コンドミニアムの1階を擁し、Blue Bottle Coffeeやラーメン屋さん、メキシカンレストランなどがあり、自転車やさんも隣接している。カジュアルだがお洒落で、ニューヨークの今の気分をコンパクトに反映している感がある。
Gotham West Marketの中。料理教室などができるイベントスペースもあるし、地下にトイレがあるのも便利
Gotham West Marketで一番スペースをとっているのが、こちらのメキシカンレストラン
Blue Bottle Coffeeも入っているし、自転車やスクーターでも立ち寄れる気軽さが今風
11番街に面したバーがオープンしていることもある
8番街にあるホテルRow NYC の2階にも、フードコートのCity Kitchenが今春オープンした。そのハス向かいには、人気ハンバーガー店Shake Shackがある。
City Kitchenは、この入り口を入って2階にある。ホテルの2階から行くこともできる
City Kitchenはカジュアルなフードコートという感じ。ラーメンや和食もある
レストランや高級コンドに比べると、ファッション関係の店は広がってきていない。チェーン店はAmerican Apparelのみ、あとはNepenthes、そしてメンズブティックのFine and Dandyくらいだ。
ネペンテスは39丁目の8番街と9番街の間に7年前に事務所を、5年前に直営店をオープンした。
ネペンテスの鈴木大器氏は、「最近の開発のおかげで、元々あった洋服の工場やトリム屋さんなど、長年この土地で商売していた人たちが立ち退きにあっています。古いビルも改装されて多分高値でオフィスとして貸し出されるんでしょう。昔ながらのヘルズキッチン、そして隣接していたガーメントセンターの面影はあと何年もつか。古き良きニューヨークはだんだんと消えていきますが、これも新しいニューヨークの形だと思うようにしています」と語っている。
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッシ
ョンビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで
20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜
更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダム
に紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)