【店長に聞く】新人教育、どうしてますか?

2020/05/05 06:30 更新


 新生活がスタートする春は、新人社員やアルバイトが小売店で働き始める季節でもある。基本的なことは社内研修やマニュアルで伝えることができるが、店頭の業務の流れを覚え、なおかつ、メインである接客、販売がうまくできる人材に育てるには、現場のトップである店長の指導が欠かせない。新人教育のコツや工夫を聞いた。

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■個性を尊重、先輩と二人三脚で

「レイカズン」ルミネエスト新宿店 大久保美穂さん

 「一人ひとりの個性やペースに寄り添った教育を心掛けています」と大久保さん。新人が自店に就いた始めの約1カ月間は、面談や日々の業務、休憩時間などを通じて、個々人の性格や仕事の得手不得手を判断するように努めている。その後は、副店長や他の社員とペアを組ませ、育成の大半を任せるようにしている。

 15年春に入社し、18年秋に店長に昇格した。副店長時代の苦い経験を踏まえ、「第一印象でこの子はこういう人だと決めつけない」ようにしている。

 最初の1カ月は、新人と勤務時間や休憩時間が重なるようにシフトを組み、出来る限りコミュニケーションを取るようにしている。こうして把握した一人ひとりの個性や長所、短所を元に、新人の成長に最適と判断した先輩とのペアを作る。

 初めて店長を務めた店では、3人の新人が入ってきた。販売職経験のあった新人は副店長と、2人の未経験者には若手の社員とでペアを作った。新人の年齢や能力を鑑みながらペアを作るようにしている。その後は、任せた先輩社員たちに定期的にヒアリングし、新人の成長の進捗(しんちょく)を確認、時にサポートするのだという。

 最近の新人と交流していて感じるのは、「キャリアプランが自社内で完結している訳ではなく、独立も想定している」ことだ。「SNSを活用して個人で活動していきたい」と初めから宣言する若者も少なくないという。こうした新人に対しては、「自店での日々の業務が、その子の将来にどう役立つのかを考えながら指導しています」。そうすることにより、「入社当時は興味の薄かった業務に関心を持つようになってくれた」例があるそうだ。

新人がミスをした際は「防止策や改善策までを一緒に考えるようにしています」と大久保さん

■急がず一人ひとりと向き合う

「アーバンリサーチ・ドアーズ」なんばパークス店店長 益田亮太さん

 「まずは重要性の高い接客の教育に注力している」と益田店長。新人の中にはバイヤーやプレスなどの職種に憧れて入社してくる人も少なくない。だが、こうした業務は店頭で販売力をしっかり培ってこそ出来るものだ。一人ひとりに目標を設定し、それをサポートできる体制を整えることで、やりがいを感じながら接客を磨いてもらうようにしている。

 新人教育はまずブランドを学んでもらうことから始まり、その中でお互いのコミュニケーションも深める。続いて商品の見方や提案方法、店頭で具体的にどう動くのかなどを教える。同時に適性も見て、例えばブログ担当のように、役割分担の中で任せる部門を決める。期初には個々の目標数値を設定し、定期的な面談でその達成状況などを話し合う。

 アーバンリサーチ・ドアーズの客層は、生活雑貨も提案することから幅が広い。接客の場面で「言葉遣いやおもてなし、たたずまいまで問われることも多い」。接客力を養うため、経験者と2人一組でシフトを組むパートナー制度を活用するだけでなく、自身が手本となれるような接客も実践し、接客の奥深さを伝えられるようにしている。店の中には接客教育の担当者もいて新人をサポートする。

 最近の新人については、「コミュニケーションや気遣いがうまく、仲間意識も強い」と振り返る。半面、「ハングリーさがもっと欲しい」と感じることもあるが、「急がずに一人ひとりと時間をかけて向き合い、本音などを聞き出せば、新たなやりがいも導ける」。

 店の中で伝達がしっかりできる体制の構築にも気を配り、周囲から伝わる新人の声も大事にする。個人のSNSも見るなど、普段からスタッフをもっと知ろうという努力を欠かさない。

「1人ひとりと時間をかけて向き合うことを重視している」と益田さん

■やりがい、楽しさを感じてもらう

「アーバンリサーチストア」イオンレイクタウンmori店 鳥塚章寛さん

 鳥塚さんは、働くうえで何よりもモチベーションが大切だと考え、楽しい、面白い、やりがいがあると思って働けるような新人教育を心掛けている。

 1日の勤務の中では、何か一つ目標を立てるように伝えている。出勤時に、どんなことを頑張るのか聞いて、退勤時に振り返りをする。出来た時は褒めて、出来なかった時はヒアリングして、どうしたら出来るようになるのかをアドバイスしている。

 販売が初めてのスタッフであっても漠然と店に立つのではなく、1ラックでもきれいに畳む、掃除・陳列をよりよい状態にするなど、実現出来そうな目標を立てるように伝えている。言われたことだけをやるのではなく「自分の中の達成感を大事にして、店で働く意義を感じてほしい」という。

 普段の会話は冗談7割、真面目3割だとも言う。店の中の風通しの良さを意識してだ。上司に対してびくびくしながら働くのではなく、何かあったときには頼れて相談出来る、話しやすい店長を意識している。

 けれど、いつでも楽しく自発的に働くことは簡単ではない。同店で働くスタッフは、社員もいればアルバイトも多い。様々なモチベーションのスタッフがいる中で、仕事をするチームの一員だと思えるように、働きかけも怠らない。

 トルソーの着せ付け一つに対しても、どう思うか、どうしたらお客に素敵だと思ってもらえるかなどを考えさせるような声掛けをする。実際にトルソーが商品の購入のきっかけになったときには、ほめることにつながり、モチベーションにもなる。

「やってみたいと思ったことは積極的に取り組んでほしい」と話す鳥塚さん

■成功体験を重ねて目標に進んでもらう

「ビームス・ウィメン」渋谷店 徳重雪奈さん

 徳重さんは13年から店長を務める。新人育成では、とにかくコミュニケーションをとることを大事にしている。

 じっくり話しながら短期、中期、長期の目標とどんな人になりたいのか、どういうポジションに就きたいのかを考えてもらう。同時に、社会人としても初めてのことばかりのため、話すことで不安を解消したいという思いがある。徳重さん自身も、どんな人なのか、苦手なことや必要なことを理解して「困ったときに手を差し伸べたい」と考えている。

 目標は一人ひとりに合わせたパーソナルなもの、例えば売り上げの数値やSNSの投稿など様々だ。長期の目標と一緒に、段階を踏んで達成できる短期の目標を設定することで、成功体験を得ながら、新人スタッフが未来のことを考えられる環境にしている。

 以前は、教育も店のマネジメントも半期で物事を考えていた。細やかに集中して指導できるメリットはあったが、局所的になりすぎて次のステップに進みづらかった。そのため、短期、長期の目標を組み合わせて考えるようにした。

 目標を達成できなかったときも「否定は絶対にしない」。個の考え方が強い新人も多いため、出来る限り尊重するようにしている。自分のために立てた目標だということを再認識してもらい、話しながら原因を探る。期間を延ばせば達成出来そうなら少し期間を延ばしてみるなど、良い意味で気を緩めてもう一度目標に向かえるようにアドバイスをする。

 最近は「チームで動くことが苦手な子が多い」と感じるそうだ。役割ごとにチームを作り、目標に対して働きかけ合ったり、刺激し合える環境を作って、互恵性を育めるようにしている。

新人スタッフに「販売員として、清く正しく美しくいてほしい」と話す徳重さん

《バックルーム》

 例年、この時期は新人教育について店長さんに取材する。今回は、まだ働き始めの段階からしっかり当人と話し合い、そのうえで目標や課題を設定し、責任を持ってそれを達成するように指導するという店長さんが多かった。

 幼少期から情報に囲まれ、周囲とつながることが当たり前の環境で育った人が多い分、今の若い世代は自分なりの考えやキャリアプランを最初から持っている。だから「ひとまずやってみて」というスタンスでは響かない。上手く行ったときにちゃんと褒めることはもちろん、失敗したときもじっくり話し、当人の納得を促す。コミュニケーション力がますます重要になっているようだ。

(繊研新聞本紙3月30日付)



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