変わるスポーツ素材ビジネス㊥ 環境配慮の切り口多様に

2021/01/10 06:28 更新


 コロナ禍をきっかけに、環境問題への関心が高まり、合繊各社のサステイナブル(持続可能な)素材の商機も増している。今回の世界的な危機は直接的にはウイルス感染症だったが、専門家からは地球温暖化が今後の新たなパンデミック(世界的大流行)のリスクともなると指摘され、環境問題が人類共通の課題としてより強く認識されるようになったとみられる。

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リサイクルは標準に

 東レは、植物由来原料の「エコディア」シリーズの一つとしてナイロン610を前面に出し、あらゆる機能テキスタイルや素材ブランドに落とし込んで提案した。ナイロン610は部分的に植物由来原料を使い、バイオ化率は60%ある。同社では以前に開発済みで本格提案を始めたのは12年。翌年にはスポーツ見本市の独ISPOでアワードも受賞した素材だ。ただし販売開始から長年、日の目を見なかったが、ここに来てようやく国内外のスポーツブランドに採用され始めるなど変化が生まれている。

 スポーツ、アウトドア業界のサステイナブル素材は、ポリエステル中心にリサイクル素材の採用が先行してきた。帝人フロンティアがこのほど発表した天然調のポリエステルニット「デルタntr」は、100%リサイクル糸を前提に開発。異型断面糸使いなど、これまでもあらゆる機能素材でリサイクルをメニューに入れていたが、いまやリサイクルは「標準装備」(合繊各社)だ。

 一方でスポーツアパレルは、同じリサイクルでもプレコンシューマー(製造時の余剰材を利用)かポストコンシューマー(消費者が使用済みの材料を利用)かといった違いを区分けし、どちらが環境貢献につながるのかといった視点でスタンスを明確化するようになっている。この一環で、バイオ由来、生分解といった多様な切り口の素材が注目され、裏付けとなるデータやトレーサビリティー(履歴管理)も求められる。〝透明性〟が共通のキーワードだ。

数値目標掲げる動きも

 旭化成アドバンスは、昨年から環境配慮のテキスタイルブランド「エコセンサー」をグローバルに立ち上げ、スポーツでも柱として打ち出す。GRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証を取得するリサイクルスパンデックス「ロイカEF」、植物由来の再生セルロース繊維で生分解性を持つキュプラ「ベンベルグ」といったグループ素材や、リサイクルナイロンなどを組み合わせ、テキスタイル製造工程でも環境低負荷を追求する。

 海外見本市の独パフォーマンスデイズへの出展を通じてグローバルでの認知拡大を目指していたが、コロナ禍のためオンライン見本市出展に切り替え、プロモーション活動は制約された。それでもパフォーマンスデイズのフォーラムに織物2点、ニット2点のいずれもエコセンサー素材が選ばれ、これもきっかけにオンライン集客に寄与。フォーラムに選ばれた4点のうち3点はロイカEF使いと希少素材が注目されている。

 同時に「ポストコンシューマーリサイクル、バイオ由来、生分解への関心が高まっている。環境負荷軽減の〝可視化〟やトレーサビリティーも求められるようになっている」(村山聖スポーツ・ユニフォーム事業部長)といい、ナイロンのポストコンシューマーリサイクル、ナイロン66のリサイクルなどさらに開発を深化させていく構えだ。

 企業として数値目標を掲げるところも出ている。帝人フロンティアは今年から環境活動指針を環境戦略に格上げし、30年度にリサイクル素材を50%以上、植物由来10%以上を目指すなど数値目標を設定した。クラレトレーディングは環境配慮素材「エコトーク」をブランド化し、21年度に重量ベースで原糸の50%に高める方針だ。

漁網のようなポストコンシューマーリサイクルも注目されている


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