専門店の魅力や強みの一つが人材で、顧客作りや満足感を高める要因になっている。品揃えに加えて、「あの人から買いたい」「あの人がいるから」など、スタイリングの相談や雑談などのコミュニケーションを楽しみにしている客も多い。ショップを継続し、顧客をつかんでいくにはオーナーの魅力はもちろん、オーナーやショップを支える人材は欠かせない。存在感のあるスタッフはショップの魅力をより高め、より幅広い顧客が来店している。
えがお洋品店 ジョニー・カワサキゼネラルマネージャー
豊富な経験と感性で切り盛り
サンクリエーション(太田明良社長)が運営する東京・巣鴨のシニア向けレディスセレクトショップ「えがお洋品店」のゼネラルマネージャーのジョニー・カワサキさん。9月に移転・リニューアルし、新たに予約制に切り替えたショップを任されている。同社はヘアサロンや写真館、ヘアメイク、ネイルサロンを運営しており、笑顔になれるシニアビューティーを総合的に提案、アパレルの経験豊富なカワサキさんが新店舗をサポートする。
ギャップや「バナナリパブリック」、H&Mやグループの「コス」での経験を積んでいるが、シニア向けや顧客特化型は初めて。だが、フロアマネージャーやコーポレートトレーナー、人事などを歴任し、「メンズとレディスのVMDや接客などの店舗運営を経験している。新しい挑戦をしたかった」という。百貨店の外商のような自分だけの空間で、特別感を提供することで、満足感を高めている。
接客では「若作りではなく、若々しい雰囲気にする」ことを心掛けている。女性目線による共感も大事だが、男性目線で接客。笑顔と豊富な知識、会話を楽しみながら、「お客様の雰囲気を一段上げる服を提案する」男性ならではのクリエイティブで、信頼を勝ち取っている。
また、顧客の多くは41歳のカワサキさんにとって、母親と息子の関係に近い。「おしゃれにしたのに、家族の反応がいまいち」と、女性同士の視線はもちろん、夫や息子の男性の反応も気になるもの。そこで、カワサキさんの出番。全体のバランスが取れているかや、若作りになっいていないかをアドバイスしコーディネート提案する。母と娘による女性目線は同じく店頭で接客する土岐まりさんがアドバイス。女性と男性の両方の目線で接客できるバランス感が強みだ。
ラグラグマーケット 千葉恭子店長
社内の潤滑油役 接客や仕入れなど現場を担う
千葉県柏市のメンズ・レディス向けセレクトショップ「ラグラグマーケット」(スズキインターナショナル)の店長を務める千葉恭子さんは、接客サービスから店頭運営、仕入れ業務、ECスタッフのまとめ役と多様な役割を担う。社長が将来の計画など経営に集中できるよう実務の細かいところをサポートする。
千葉さんは15年4月にパートタイムで入社した後、育児に配慮した時短社員(3年間)を経て、フルタイムの正社員となった。銀行員時代から営業担当で人が好きだったため、「店頭での接客は楽しい」という。ちょうどレディスを本格化する時期だったので、レディスの仕入れ業務も担当。未経験なので戸惑いもあったが、鈴木太郎社長から「自分が欲しいと思うものを選んでみて」とアドバイスを受けたので、やりやすかったという。自分で選んだ商品に対する顧客の反応をダイレクトに体感できることに「やりがいを感じ、どっぷりはまった」と振り返る。現在はレディスの仕入れを任され、メンズの仕入れも鈴木社長と同行する。店頭でのリアルな顧客情報を生かしている。
社内のアットホームな雰囲気づくりにも一役買っており、千葉さんはスタッフの誕生日には自らの手作りケーキでお祝いをする。「コロナ禍でコミュニケーション不足になりがちな分、スタッフが安心して楽しく過ごせる環境になるよう」に意識している。また、現場スタッフの相談に乗ったり、社長の提案を伝えたりと潤滑油的な役割も担う。また、鈴木社長が創業以来20年近くほぼ毎日出勤していたので、リフレッシュしてもらうために公休を設けた。さらに今年の秋には長期休暇を強引に取ってもらった。
今後はさらなる認知度向上に向け、SNSの活用を今まで以上に力を入れる。コロナ以前からECサイトでは動画での商品紹介をしてきたが、12月の店頭イベント告知をきっかけにインスタライブも開始する。
アンスリール 冨田朱里さん
それぞれの得意でお互いを補完 店の思いを多様に伝える
大阪府吹田市のレディスセレクトショップのアンスリールは16年創業と歴史は浅いが、EC、インスタライブを積極的に取り入れ、コロナ禍も苦にせず成長し続けてきた。現在、スタッフは4人。19年入社の冨田朱里さんは、オーナー兼店長の花岡由香さんとともに定時配信のインスタライブでカメラの前に立ち、商品の魅力を伝える。実店舗の接客でも、オーナーだけではとらえきれない客層をカバーする大きな存在だ。
「シンプルな服を美しく着こなすことが最も難しい」と冨田さん。以前は近郊のセレクトショップに勤務していた。インスタグラムで見たアンスリールのスタイリングは、明らかに他店とは別格に見えた。同世代としての強い共感も覚えて常連客となり、この店で働きたいと思うようになった。当時、同店のスタッフ全員が幼い子供の育児中。花岡オーナーはフルタイムで働け、強い助けとなる冨田さんの申し出を快く受け入れた。
冨田さんは決まりごとが少なく、思うように働ける職場だと感じている。だが接客では、以前勤めていた低価格帯の店と同じ言葉遣いではだめだと強く戒められたという。「オーナーの接客は、適度に顧客との距離感を保ちスタイリッシュ。対照的に自分はテンション高めで巻き込み型」だと言う。
接客には相性があり、心理面だけでなく体格でも生じる。低身長の訪店客には、同じ悩みを持つ冨田さんの提案とバイイングが力を発揮する。彼女を慕う顧客は日を追うごとに増えている。店のスタイリングが確固だからこそ、スタッフの多様性が購買率を高めていく。
運営面で意見が食い違っても「店を最も良いものにしたい」という気持ちは一致している。後輩の育成が苦手で、オーナーから苦言を呈されつつも「今着ている服は数年先には着られない。絶えず変化するファッションを花岡オーナーとともに提案し続けたい」。店への愛情と熱量が顧客に強く響いている。
(繊研新聞本紙22年12月1日付)