地方のセレクトショップがレストランなど飲食店を併設した居心地の良い空間作りで、新たな顧客を増やしている。本業のアパレル・ファッションとの相乗効果も生まれ、コロナ下でも業績を伸ばしている。ニッチでマニアックな品揃えのセレクトであっても、飲食という新たな入り口を設けることで、広域から集客することも可能となり、魅力的なコミュニティーになり得る。
【関連記事】【専門店】着実に成長する「えがお洋品店」 斬新な提案でシニア客つかむ
多彩なイベント開く
群馬県桐生市のアウトドアと旅をコンセプトにしたセレクトショップ「パーヴェイヤーズ」(運営パーク、小林宏明代表)は昨年秋からクラフトビールの醸造を始め、店内を改装し、1階にレストラン、3階テラスにバーを新設して約1年が経過した現在、コロナ下でも新規客が大幅に増え、堅調に推移している。
「コロナ下を耐え忍ぶだけではなく、新しいことを試したり、挑戦したりと常に攻めの姿勢を貫いてきたことで新たな活路を切り開けた」と小林代表。同店はコロナ下の前期でも売り上げを下げることなく、黒字を確保した。今期の売り上げは2倍になったという。レストランを新設したことで、今までと違った客層の来店が増え、おしゃれ女子や若い世代の来店が目立つ。中年男性がコーヒーだけ毎日飲みに来たり、年配の夫婦がビールを飲みにふらっと入ってきたりするようになった。
以前はアウトドアに関連したガレージブランド、マニアックなギアやアパレル、グッズの物販だけでハードルが高かったのか、店のスタンスに共感したファンが東京など広域から来店するのがほとんどだった。近隣でのキャンプなどの行き帰りに立ち寄る県外客が目立ち、地元客は少なかった。レストランを開業してから、営業時間の短縮要請は守りつつ、定期的にイベントは開催してきた。同店ならではの天井高の空間を利用し、元シルクドソレイユの人のパフォーマンスは毎回ソールドアウトになる好評ぶりだ。音楽ライブや物作りのワークショップ、扱いブランドのポップアップイベントなど多彩なイベントで集客している。小林代表は「これからもカルチャーを発信する拠点であり続けたい」との思いは強い。
逆にギアやグッズ目的の客がコーヒーなどを飲みながらゆっくり買い物する姿も多く、2階や3階の物販との相乗効果も出てきた。今まで以上に幅広い客層が気軽に来店するようになったので、「この1年で顧客との距離も近づいてきた。この店でニッチな商品の良さに気づき、センスを養える場にしたい。そのためにも今後はもっとスタッフの個性を色濃く出した接客でファンを増やしていきたい」とパーヴェイヤーズの挑戦は続く。
会員制で顧客を厳選
石川県加賀市の郊外にセレクトショップ「フェートン」を構えるファッツスクエアカンパニー(坂矢悠詞人代表)は、同じ敷地内に紅茶専門店「ティートン」を昨年夏にオープンした。開業した効果で来店客数は30倍に跳ね上がり、本業のセレクトショップの今年の売り上げも、コロナ下にもかかわらず、2倍に拡大した。
元々、フェートンは立地を含め強い目的意識がなければ気軽に来店できないハードルの高い店だった。客単価20万円を超える人が多く、1度に数百万円の買い物をする顧客も珍しくないという。5~6年前に欧米など海外からの来店も増え始めたとき、「ゆっくり過ごしてほしいが、ショップでは1時間が限界。心地良い状態で長く居てもらうために、もっとおもてなしがしたい」との思いがティートンの立ち上げにつながった。多趣味な坂矢代表がネパールの紅茶にはまり、「お茶会」のイベントを積み重ねてきた発展形でもある。
ティートンもフェートン同様に顧客を厳選しており、会員制のため誰でも入れるわけではない。年に数回しか募集もしていない。そのため、オーナーの感性や美意識に共感し、長く付き合いたいと思える感度の高い客層に限られる。そうした姿勢が結果的にステータスを高め、品性の高い客が集うようになった。会員は東京で約1500人、大阪で1000人ほど。ダージリンを中心にした紅茶に、グルテンフリーのオリジナルスイーツが人気だ。テイクアウトは会員以外も自由に買えるので、行列ができることもある。坂矢代表は厳選した紅茶はもちろん、オリジナルメニューの開発から内装のデザイン、テーブルやインテリアの選定まで全てをプロデュースしている。店内から見える庭の植樹から種まき、店内に飾られる花も坂矢代表が毎日生ける徹底ぶり。
ティートンがきっかけでフェートンを知る新規客も多く、厳選されたファッションの入り口になっている。関西からファッションを求めて来店した顧客がティートンでくつろぐことも増え、滞在時間は2時間超になった。「地方のわざわざ来店したくなる立地だからこそ、全国からファンが集う魅力的なコンテンツづくりが欠かせない」と強調する。
(繊研新聞本紙21年11月4日付)