【専門店】《コロナ下の新店開業》なぜ今、実店舗を? 目指す店舗像は?

2021/07/22 06:30 更新


 新型コロナウイルスの終息が見えない逆境下でも、新規開業する果敢な店はある。今回は今春に1号店を出店した東西の店に、この時期に開業した理由やこれから目指す店舗像について聞いた。開業の背景にあったのは自店を持つことへの強い憧れ。周辺に競合が少ないファッションの空白地を選んだ点も共通している。

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ショウル(東京都杉並区)

未知のファッションと出会える店に

 「ショウル」は21年2月、東京・西荻窪にオープンしたメンズ・レディスセレクトショップ。百貨店や地方のセレクトショップ、大手SPA(製造小売業)に勤めた経験を持つ柴田基裕代表が立ち上げた。当初は20年5月に開業予定だったが、1回目の緊急事態宣言下で止むなく延期。ECを先行して開設したり、都内で期間限定店を出したりしながら機をうかがい、積年の夢をかなえた。

 83年生まれの柴田さんは、「大学生時代から服が好きで、自分の店を開きたいという気持ちは漠然と抱き続けていた」という。前職では大手SPAの都心の大型旗艦店で働いていたが、一人ひとり顔の見える客に対して、服に込められた背景を伝えながら販売できる個店運営への思いを捨てきれず、独立を決意した。

 店は西荻窪駅から南東に徒歩約5分。通りに面した場所にある。「飲食店を中心に古くからの個店が多い半面、ファッションを販売する店は少ないことに立地としての魅力を感じた」という。店舗面積は約33平方メートル。モード、ストリート、クリーンなど様々なテイストの服を好み、豊富な経験を重ねてきた柴田さんなりの良質なカジュアルウェアを提案する。

今春夏のレディスの商品構成は約25%だが、想定よりも女性客が多いため、秋冬から仕入れを増やす

 扱うブランドは、「ディガウェル」「イザ」「アン」「メイアス」「クリーブランド」「ジンモン」など。「お客様が未知なるものと遭遇できるのが、セレクトショップならではの価値」という考えで仕入れている。

 近隣に暮らす客をはじめ、特定のブランドを目掛けて遠方から訪れる客など「服装にこだわりのある方の来店が多い印象」という。年齢層は20~70代までと幅広く、男女比は半々。想定よりも女性が多いため、「今秋冬からはレディスの仕入れを強化する」。客単価は3万円弱で推移している。

 今後は来店客を増やすため、集客策にも力を入れる。「ファッションの新たな発見や感動を提供、お客様がわざわざ足を運ぶだけの価値のある店を目指したい」

「ファッション業界での多様な経験全てが今に生きている」と柴田代表

ラッセンブル(奈良)

地域に根付く店を目指す

 「ラッセンブル」は、奈良駅近くの古民家を改装してできたメンズセレクトショップ。「いつか自分の店を持ちたかった」高橋渉さんが、21年2月にオープンした。独立を決意し、開店準備を進めていた頃は、新型コロナウイルスが感染拡大する前。

 その後、コロナ下に突入したが、「服が好きな人はコロナに左右されずに服を買うし、また明るい世の中に戻る」と、前向きな考えで開業した。

 奈良に出店を決めたのは、「周りに競合店が多くなかったことと、趣のある物件に巡り合えたから」。最寄り駅から意外と近いが、細い路地に入った隠れ家のような立地も、「地図を頼りにワクワクしながら気になるショップを探していたかつての自分の経験が思い浮かぶ」と気に入っている。築100年近い古民家を洗練された空間に改装し、自分が好きなモノを揃えた。

築100年の古民家を改装し、デイリーに楽しめる上質な服を揃えた 

 店舗面積は約33平方メートル。「上質なモノをデイリーに楽しんで欲しい」という考えで、毎日着て欲しいものをセレクトした。家で洗えるかどうかなどの点にもこだわっている。

 主なブランドは「ユーゲン」「ナイスネス」「マーティー&サンズ」「アルテリア」「オールドホームステッダー」など。インポートで「オールデン」「ノベスタ」の靴などの服飾雑貨も扱う。店の照明やスピーカーに、奈良のクリエイターが手掛けるものを採用するなど、店作りにも工夫した。

 開店してから半年足らずだが、「思っていたよりも出だしはいい」。ECもしているが、実店舗の方が勢いはいい。SNSがフックとなるほか、口コミでの来店もあり、「奈良にも服を好きな人は多いし、大阪などから来てくれるお客様もいる」。客層は20~50代と幅広いが、30代がとくに多い。

 高橋さんは大手セレクトショップやインポートブランド直営店で経験を積んで独立。今後の目標は「たとえ細くても、まずは長くこの店を続け、地域に根付いていくこと」だ。「買い物だけでなく、会話も楽しんでもらえる店になりたい」と笑顔を見せる。

店内の一角
「ワクワクする立地と物件で店作りができた」と高橋さん

(繊研新聞本紙21年6月17日付)

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