繊研新聞社は中小ファッション専門店へ「21年販売結果と22年経営見通しアンケート」を行った。21年10月の緊急事態宣言解除を受けて人の動きとともに復調傾向も見られたが、年初の新型コロナの終息見通しが想定以上に長引いたため影響が続いた。各店の立地や環境、品揃え、価格帯などが異なるため単純な比較はできないが、20年のような休業や大きな営業時間短縮などがなく、コロナ禍での営業体制や運営施策の強化、新たな取り組みなどの成果、「自粛疲れや慣れによる購買」も見られ、売り上げ増となった企業が半数を超えた。19年対比でも伸ばしている企業も見られた。今回のアンケートでは21年の「売り上げ、客数・客単価の増減」「コロナ禍で実施した販売施策」、22年の「販売見通し」「重視する経営指標」を聞いた。
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《販売結果》回復、6割前年越え 新たな施策などが奏功
21年の販売結果では前年を上回った企業は59%を占め、下回ったのは19%となった。昨年と回答企業の入れ替わりもあるため単純比較はできないが、昨年はコロナ禍で大きな影響を受けて回答企業の60%ほどが前年を下回っていたが、回復傾向が見られた。コロナ禍を契機に環境の変化に対応した新たな施策などが奏功し、売り上げを伸ばしている企業も目立つ。
コロナ前超え3割
コロナ前の19年対比でも31%の企業が売り上げを伸ばした。イシカワラボはEC販売に大きくシフト、人員の拡充や新規出店などで2倍以上の売り上げとなっている。ほかにもコロナ禍でも「新規出店を行った」(Tフロンティア)、「前年より仕入れ量を増やした」(イリヤ)、「MDの見直し」(ベシックス)、「多くのメーカーとのタイアップ企画」(えがお洋品店)などを行った店で2ケタ増となっている。
売り上げが減少した企業でも90%台が多く、20年も売り上げを伸ばした企業のほぼ横ばい傾向や施策などで押し上げている。一方、催事が出来なかったや主力ブランドの休止、営業時間の短縮など、コロナ禍による外的要因の影響を受けた企業もある。
客数減も客単価増
客数・客単価の傾向での質問では、客数が「伸びた」と回答した企業は32%で、「落ちた」は34%。伸びた企業では、「自宅近くに好みの店を探す方が増えている」(スズキインターナショナル)など、コロナ禍での移動制限やテレワークなどで都心に行かない消費者や、EC販売の強化などで新規客が増えている企業も。
一方、広域から集客していたショップや、顧客の消費意欲の低下やファッション需要の変化などで、引き続き客数の減少も見られた。
客単価は「伸びた」が59%で、「落ちた」は19%。伸びた理由として、客数が減少した企業でも「来店されるお客様はまとめ買いが多い」など、セット率向上や買い物を楽しみたいとの雰囲気が感じられる。また、「新規ブランドの高額商品が貢献」(イズントイットデザイン)など、コロナ禍で品揃えを見直した企業での客単価アップも目立った。顧客中心の企業は接客やコーディネート力の向上などで、信頼関係をさらに深めることで客単価が上がっているケースも。一方で、外出自粛によるアウターやビジネス、旅行などの需要減、家ナカ需要増によるカジュアル化などで、減少したケースも見られた。
強まるデジタル化
コロナ禍で実施した販売施策(複数選択)では、「SNSでの販促アプローチ」が昨年に続きトップで、ECサイトの開設や整備、ライブコマースなどに注力する企業が増えており、オンラインの活用や情報発信がより強まっている。「イベントなどをSNSで告知、検証を繰り返して少しずつ新規の若い客層が増えている」(カワシマ)、「インスタグラムで紹介したものがより売れるようになった」(セルティ)、「インスタ動画とウェブショップの連携に取り組んだ」(リトルハピネス)、「ライバーの採用や育成の仕組みを整え、インスタライブの頻度アップと精度を高めた」(イシカワラボ)など、さらに活用が加速している。
ほかの項目では、「服以外のイベントなども増やして来店を促進」(クール・デ・シエル)、「通販にはあえて力を入れずに、ローカルのお客様を中心に県内の作家やもの作りに特化した催事を開催」(プラント&ソイル)、「食物販事業に参入し、既存店舗のある施設で催事販売」(ブルージュ)、「集客訴求がしにくい傾向に、Aランク顧客への個別訴求と接触時間を増やすように心がけた」(オキ)など、多様な取り組みを行っている。
《22年見通し》「悪化」はわずか6% オリジナル強化の動き
「22年の販売見通し」は、「伸びる」を選んだ企業は69%を占め、「悪化」はわずか6%。昨年は「伸びる」と回答した企業は55%で、新型コロナの終息への期待感などでさらに割合を増やしている。
昨年10月の緊急事態宣言後の人の移動が増え、売り上げも回復傾向が見られることも大きな背景となっている。オミクロン株の懸念もあるが、「22年は」との思いも強い。また、コロナ禍で行ったブランドの再構築やEC販売の強化などの施策の成果がでてきていることも大きいようだ。
「横ばい」や「悪化」と回答した企業では、「第6波への懸念が拭えない」や「以前のような購買動向には戻らない」などの不安要素が理由に多かった。
目利き力がカギ
「重視する経営指標」を選択(複数回答)してもらった結果は、「発信力・集客力」が引き続き一番多く、「目利き力の磨き」も2番目で同じ傾向となった。
より一層コロナ禍で、不必要なものは買わないが、気に入ったものやブランドの背景がわかる、共感する、ほかにはない魅力ある商品などが動く傾向が強まっており、情報発信力や商品力が重要になっていることが分かる。「品揃えに対し、情報発信による集客、仕入れ商品の目利き力が必須」(ロフトマン)など、個性を求める消費者への対応が重要と考えている。
人材育成も課題
多少の順位変動はあるが、「人材の確保・教育・育成」、「自店独自商品の開発」も上位が続いており、「EC、SNSに負けないスタッフの発信力(接客力)をどう育成していくかがポイント」(ビーザ・ワン)など、人材の重要性は変わらない。
上位に上がった項目は「セレクトショップの基本」(ワンウォッシュ)とも。また、個性や差別化の重要性とともに、「小ロット生産やSNSの発達などで、個店でもオリジナル商品の販売がより可能となった」(ファボリニコ)など、オリジナルを強化する動きも目立つ。
《アンケート協力企業・ショップ》
イシカワラボ、イズントイットデザイン、イリヤ、えがお洋品店、エスカルゴサーカス、オキ、カワシマ、クルール、クール・デ・シエル、ザボウ、ジャンクロビー、ジュネス、ジョイパレ、スカイニュータイプショップ、スズキインターナショナル、セルティ、ツジ、Tフロンティア、トライベカ、ビルドアンプグループ、プラント&ソイル、ビーザ・ワン、ファボリニコ、ブルージュ、ベシックス、マスターリング、ムスターヴェルク、ラージ、リゾラディエム、リトルハピネス、ユーフォニカ、ロフトマン、ワンウォッシュ(50音順)
(繊研新聞本紙22年1月6日付)