《接客のチカラ》専門店 教育制度整備や働き方改革が進む リアルでしか味わえないサービスを

2024/09/25 06:29 更新


 コロナ禍の収束に伴い、実店舗に客が戻ってきた。リアルでしか味わえない買い物体験の提供に向け、店頭での接客を改めて強化する専門店が増えている。技術を高める研修、教育の仕組み整備や、販売員がやりがいを持って働き続けられるよう、キャリアパスや待遇の見直しを急ぐ動きも活発化している。

やりがいと自発性を両立

 21年、緊急事態宣言下での店舗営業を強いられた時期にユナイテッドアローズは、接客時に極力長く話さないよう心がけた。ところが来店した顧客からは「以前より接客が薄くなった」と言われることが増えた。

 感染防止のためにとの判断が「逆におしかりを受けることにつながってしまった」(松崎義則社長)。店頭接客の重要性を再認識した同社は、販売現場が自発的にスキルアップに取り組める環境整備に着手した。

 販売員と店長に必要な要件を定め、到達度合いを客観評価できる仕組みを策定。22年に主力業態に試験導入、23年度から本格運用に入った。店頭で必要なスキルを測る基準を全社で共通化することで教育や育成手法のムラをなくすことを狙った。

 ビームスは21年9月に社員に対して「ジェネラリスト」「スペシャリスト」の二つのコースを設定した。管理職を目指すジェネラリストに対し、スペシャリストは販売員など特定業務での熟練度を見る。

 スペシャリストは4段階の「エキスパート」評価を受ける。各段階はジェネラリストの職制上の階位に対応しており、販売員としてのステップアップを適正に評価できる。

 シップスは、24年9月から「セールス・マイスター」制度をスタートした。実績を3段階で評価し、給与に反映する。勤務店舗や業態の違いを考慮し、店舗内での売り上げ順位や客単価、セット率など複数の要素で判定する。

 最高ランクのゴールドは、自分の接客技術やノウハウを同僚や後輩に伝える力の有無も問われる。店長やマーチャンダイザー、プレス以外に販売職としてのキャリアパスを整備することで、モチベーションを引き上げる考えだ。

人材定着できる組織へ進化を

 接客技術向上に取り組む専門店はセレクトショップ以外でも増えている。AOKIは23年秋、5年ぶりに社内ロールプレイング大会を復活した。紳士スーツに加え、新たな柱であるカジュアルとレディスでも接客レベルを上げるのが狙いだ。

カジュアルやレディスを強化するAOKIはロープレ大会を復活した

 24年も全国約500店舗の1500人が参加し、予選を勝ち抜いた10人が9月の決勝大会に臨んだ。全国の店舗のスタッフがトップ販売員の接客技術やノウハウを共有できるよう、大会の様子はライブ配信するなど動画で記録した。

 21年11月から時短勤務社員によるウェブチャットサービスも開始した。利用者は店舗の営業時間が終了した夜8時以降が多い。この取り組みも含め、販売スキルの高い人材が定着できる仕組みを進化させる考えだ。

 セルフ販売が軸のジーユーも社内ロールプレイング大会に力を入れている。24年7月の大会には全国1万6000人から選ばれた8人が参加した。

 コーディネート提案とアプリの使い方の説明など、短時間で客が必要な情報をいかに分かりやすく伝えられるかを競う。セルフで満足な客には笑顔であいさつし、サポートが必要な客を見つけたらかける、普段の店頭での所作の積み重ねが大会で評価されるわけだ。

 柚木治社長は「店頭で接客を受けたお客様の購入金額は確実に上がる」との考えのもと、10年以上前からコーディネートを指南する販売員「おしゃリスタ」を店頭に配置している。グローバル出店を本格化する今後は、海外でもロープレ大会など接客技術向上に取り組むという。

アプリを使った案内など買い物の変化に合わせた接客強化に取り組む動きも(ジーユーのロープレ大会)


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