昨年2月、全国の小・中・高校、特別支援学校が一斉臨時休校となって以降、コロナ禍が経済や生活に大きな影響を及ぼすようになり、1年が経過した。テレワークや外出控えなど生活様式が変化した人も多く、コロナ禍終息後も以前と同様の商売には戻れないという指摘も多い。コロナ禍は専門店経営にどのような課題を与えたのか。
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増収店は対照的
アンケート回答企業の6割が2ケタ減収となるなか、反対に売り上げを2ケタ以上伸ばしたのは2店。しかしその手法は大きく違っている。イシカワラボ(静岡県三島市)は、販売主体をECにシフト。人員体制の整備、採用、事務所を新設するなどスピード感を持って経営を刷新。インスタライブで情報発信するなどで、前年同期比で146%増と大きく売り上げを伸ばした。
対象的に、イリヤ(広島県福山市)はECやSNSを使わずに売り上げを2ケタ伸ばした。デジタルツールがコスト・作業を効率化することを認めながらも「店頭販売の内容を濃くして、対面でしか伝えられないものを重んじたい」と長年にわたって販売員の接客技術を高め、信頼を築き環境に左右されない強い体質を育んできた。その結果、コロナ禍でも顧客の足を遠ざけなかった。
増収にはならなかったが、ほぼ前年並みにとどめたヴェリスタ(大阪市)は、「テクニック的な施策の前に勉強会を開き、スタッフ全員に理念を浸透させた。一人ひとりのお客様と向き合い、できる方法を考え、小さな要望にも応え続けるという商売の原点に戻った」と基本姿勢を見直し、徹底させている。
購買・行動変化に対応
コロナ禍の悩みとしては客数減、休業、営業時間短縮での減収に多く見られた=グラフ①。
では、来店客にはどのような変化があったのか。外出控えなどの行動制限でお出かけ着が売れず、カジュアル化が進んだという意見が多い。「感染対策で高齢者の外出控えが顕著」「既婚者で家族のいる層は、来店頻度、購買意欲ともに減少した」など、ライフステージで変化が見られたとする意見も少なくない。「ファッションや洋服に興味の薄い客層がさらに店離れ」(大阪市、オキ)や、物を増やさないという心理が増長し、「何となくの買い物が減少。目的買いに変化した」(広島市、ザ・ステージ)と見る声がある。半面、「本当に洋服が好きな人、装うことが好きな人は、どんな状況でも来てくれる」(兵庫県姫路市、うめや)との声も。ファッション嗜好(しこう)の強い顧客を多く持つことが、大きなポイントとなっている。
「価格訴求より商品価値のある商品が動いた」(京都府宇治市、シンキ)とあるように、セールや値引きは集客効果が薄れている。「購買欲求が低いなか、どうしても欲しいと思わせるだけの商品を提案しなければならない」(三重県伊勢市、ツジ)という決意の通り、さらに顧客の目にかなうバイイング力が求められる。
独自性を商品開発に求める声もある。「地域によって違うと思うが、店のオリジナル商品・ブランドが必要」と回答したビルドアンプグループ(高知市)は、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からGOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)認証のオーガニックコットンのTシャツの生産販売を始めており、今後も「自社オリジナル製品の開発に心血を注ぐ」覚悟で臨むとしている。
オンライン展は不評
コロナ禍で展示会をオンライン化したアパレルメーカーが急増したが、専門店の評判はそれほど良くない=グラフ②。
今後どのような展示会方式を望むかの問いに、「効率が良いのでオンライン展のみ、もしくは主体としてほしい」と答えたのは、ECで大きく伸ばしたイシカワラボのみ。商品の質感、素材、重さ、サイズ感がわからないといった意見がかなり多く、「リアル展を主体にしてほしい」と「オンライン展示会は不要」の回答を合わせると全体の7割を占める。「それぞれの良い部分を融合していくべき」「大変だと思うがイノベーションして欲しい。大変な先にしか新たなことは生まれない」といった今後の期待感も寄せられており、アパレルメーカーにはこうした声に応えてもらいたい。
SNSの効果と限界
SNSは情報伝達の早さ、効率化だけでなく、「商品以外の店、オーナー、スタッフの個性が伝わる」(オキ)、「品揃えに共感してくれる未知のお客を掘り起こしてくれる」(ツジ)、「既存顧客とのつながりが強くなった」(うめや)と、ほとんどが効果を認めている=グラフ③。
SNSへの不満は「年齢が高い顧客層への訴求」(ツジ)のほか「ハートフルでサステイナブル(持続可能)な関係の構築」(鈴屋)、「いい意味、悪い意味含めて関係性が希薄」(ビルドアンプグループ)といった実感も多く寄せられた。ターゲットに即した使い分け次第で効果が左右されそうだ。
新たな経営課題も
衣料品購買意欲の向上が見込めないことや、対面接客の機会が減る傾向が避けられないと見る向きも少なくなく、「環境や気候に左右される衣料品のみの業種ではなく、2本、3本の柱となる事業を見出して融合する」(京都府舞鶴市、英里奈)といった新規事業の必要を課題とする回答も見られた。また「実店舗のみから、ECもしくは通販的な方法の販売チャネルを拡大、多様化する」(大阪府泉佐野市、鈴屋)、「リアル店舗だけに依存しない、零細企業なりのオンラインとのハイブリッド経営」(オキ)など、デジタル活用がまだ十全とは言えない実情から、変革の必要を示す回答も多かった。
コロナ終息後には「属人的なパパママストアから企業への脱却、自足式組織の構築」(イシカワラボ)、「グローバル化、SDGsへの取り組み」(英里奈)、「量から質への転換」(シンキ)、「新規取引先開拓、新規出店、新規事業計画」(奈良県天理市、マスターリング)など意欲的な経営課題を上げる回答が多く、苦労の先にある希望と期待が見てとれる。
■アンケート協力企業(店名)
アーンスロー(アーンスロー)、石川商店(イシカワラボ)、イリヤ(イリヤ、スウィッチインターナショナル)、ヴェリスタ(ヴェリスタ)、うめや(うめや)、エスカルゴサーカス(エスカルゴサーカス)、英里奈(生活編集館サクレ、ブラックギャラクシー他)、オキ(クレアトールオキ)、ザ・ステージ(ザ・ステージ、ウーマンズギャラリー他)、ジュネス(タオルブティックジュネス、モンノールジュネス)、シンキ(ブティックシンキ、ブティックベルファム他)、鈴屋(スズヤ22)、ツジ(ファーレ)、ビーザ・ワン(キュテラ、ミルラ他)、ビルドアンプグループ(ライクライフ、ママロコ)、マスターリング(メインリング、ラ・レーヌ他)(50音順)
(繊研新聞本紙21年3月25日付)