TSI「パーリーゲイツ」の販売術 顧客を熟知し、好スコア 距離縮め一歩先を提案

2022/05/03 06:28 更新


 ゴルフブームの中で、ひときわ存在感を強めているのが、TSIの「パーリーゲイツ」だ。22年2月期第3四半期の売上高は、前年同期比27.1%増の118億円(派生ラインの「マスターバニーエディション」など含む)となった。ブランドの高い成長を支えているのは、顧客と強いつながりを生む販売現場。最前線をのぞくと、一般アパレルの販売にも通じる手法が徹底されていた。

(杉江潤平)

スタッフに試着を励行

 「これ以上のサイズだとぶかぶかになってしまいますよ」。丸の内店の織田沙織店長は、パンツの購入に訪れた男性顧客に対し、太もも部分のゆとりをつまみながら言い切る。それを聞いた男性客は、試着していたものよりもう一つ大きいサイズを選ぼうとしていたのをやめ、笑みを浮かべながら「織田さんがそう言うなら」と、指定のサイズを購入した。

 織田店長がこうした提案型の接客ができるのは、顧客と近い関係を築けているためだ。心掛けているのは、顧客の名前をフルネームで覚えること。「来店した際に、すぐに名前で呼ばれれば自分がこの店の常連であること、特別な存在だとお客様に認識してもらえる」として、織田さんが店長として配属された1年半前から、丸の内店では顧客の顔と名前を覚える作業を始めた。今ではスタッフ7人全員が、約200人の顧客の顔と名前を言い当てられる。

織田さんは「ピンキー&ダイアン」「ジル・スチュアートニューヨーク」などを経て19年に配属。現在子育て中でブランド初の時短勤務店長でもある

 もう一つ心掛けているのは、フィッティング後の第一声。「『いかがですか』はNG。販売員の感想や評価を知りたいからお客様は出てきている。似合っているか、サイズに問題はないか、プロの販売員としての意見を求められているのだから、それに応える必要がある」と話す。

 そのために織田店長が率先し、新人スタッフに推奨しているのは、全製品の試着。開店前に袖を通し、着心地や丈感などを確認している。特に体形が変わりやすい40代以上の客は、体のラインが出ることを嫌がるため、「製品ごとにどう見えるかを知っておくことが重要」という。

 顧客情報をスタッフ間で共有し、チームで接客に当たっているのも好調店に共通する。前期、2億9000万円(マスター込み)を売り上げ、都内1番店となった小田急新宿店では、顧客ごとに来店日と購入品番、サイズ、価格を記したカルテ(顧客管理シート)を作り、ファイリングしている。アナログで地道な作業だが、スタッフがそのシートを折に触れ見返し、顧客のワードローブを意識した提案につなげている。

顧客管理シート(カルテ)で購買履歴をスタッフで共有し、次の提案に生かす(一部画像処理をしています)

 実は同店は、これまで都内1番店では無かった。スタッフ数はピーク時には11人に及ぶ大所帯で、「人数が多い分、個人プレーに走る店員が目立ち、数字を取れない人へのフォローが十分ではなかった」(木崎美幸店長)という。そこで19年9月に木崎さんが同店店長に配属されると、スタッフ全員を輝かせるため、上顧客を若手販売員に担当させ、ベテランがフォローに回るようにした。その中で若手が顧客の顔と名前、買ったものを覚えていく経験を積み、自信を付けていくようになると、店全体の士気が向上していったという。

「パーリーゲイツを着ることにプライドを持っているお客様が多く、作り手のブランド愛と誇りが伝わっていると感じる」と木崎店長

客、ブランド、店つなぐ

 顧客と店の関係作りには、ブランドカタログも大きな役割を果たす。パーリーゲイツでは年4回、全ページカラーで60ページ前後に及ぶ冊子を発行し、顧客に郵送する。該当シーズンのテーマやイメージを伝えるとともに、発売製品をほぼ網羅するカタログは、「お客様とブランドと店をつなぐツール」(木崎店長)になっている。実際に各店舗では、上顧客にカタログを郵送したのち、届いたタイミングで連絡を取り、商品の仮予約や来店の約束を取り付けるのに活用している。顧客側から連絡が入ることも少なくない。

 製作段階では、ディレクターとプレス、MDが連携。売りたい商品のカタログ掲載を徹底し、イメージ先行にならないよう注意している。表紙のビジュアルも、商品のディテールが見えるよう2人の男女モデルは正面を向き、互いにくっつき過ぎないようディレクションする。

カタログはシーズンテーマとともに展開商品をデリバリー順に掲載

 一方で、ブランドの思いやメッセージは大胆に表現。ブランドの代名詞である明るい色柄を封印した21年春号では、インパクトを出せる中とじの見開き部分にあえて服を載せず、「あの時の、あの気持ちは、これからで変わる」と記して、話題を呼んだ。愛をテーマとした今春は、モノクロ誌面に赤のハートマークを散りばめた。

実地研修でリアリティー

 アパレル販売の普遍的なスキルが求められる一方、ゴルフ特有の知識や経験は、やはりある程度は必要となる。しかし、若い販売員にはゴルフ自体なじみが薄く、始めようにも資金面などでハードルは高い。そこでTSIではゴルフブランドに関わる販売員を対象にゴルフ場での実地研修を会社が主導して続けている。研修内容はプレーに関するものだけでなく、クラブハウス内の設備見学や1日の流れなどにも及ぶ。

2月に神奈川県茅ケ崎市のゴルフ場で開催した研修会には都内店に勤務する15人が参加

 同研修を運営するTSI第3事業ディビジョン販売第1セクション長の角佳昭さんは、「新卒で入社した販売員はゴルフ未体験者が多く、まずはどんなスポーツなのか、知って安心して働いてもらいたいと思った。販売しているアイテムがゴルフ場でどんなシーンで、どのように使われ、どう便利なのかを知ってもらえれば、接客にリアリティーを持てるはず」と企画意図を話す。

ゴルフの販売員約340人を統括する角さん

 2月の研修に新人を派遣した店長からは、「1回でもやったことは自信につながる。受け身だった接客が変わり、コーディネート提案を積極的にするようになった」「プレー中は真冬でも体が熱くなることが分かり、これまでお客様に薦めていたものでは暑かったかもしれないとの気付きを得た」といった感想が寄せられた。

※撮影時のみマスクを外しています

(繊研新聞本紙22年3月29日付)

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