22~23年秋冬パリ・コレクション 新しい女性らしさの模索続く

2022/03/11 11:00 更新


 22~23年秋冬パリ・コレクションはいよいよ終盤となり、有力ブランドのショーが相次いだ。前シーズンに続いて、女性のボディーに焦点を当てたデザインが広がっている。マスキュリンなアイテムを取り入れて、新しい女性らしさを探る動きも見られる。ボリュームのコントラストをつけながら、軽やかに仕上げたスタイルにも注目だ。

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 ルイ・ヴィトンは、オルセー美術館でショーを開催、その映像を配信した。オーバーサイズのレザージャケットにワイドパンツ、花柄のネクタイというスタイルでショーは始まった。ハンティングジャケットのような武骨なジャケットにドレスを合わせ、そこにもネクタイを合わせていく。

ルイ・ヴィトン

 秋冬はマスキュリンとフェミニンの間の新しいバランスを探すコレクション。ニコラ・ジェスキエールが得意とする様々な時代の要素をミックスしながら、マスキュリンとフェミニンの間で遊ぶ。ボーンを入れたようにペプラムラインを作るドレスは布地がそのままストールのように揺れ、エプロンドレスのような軽快なドレスはビジュー刺繍でチェック柄を描く。手仕事を入れたり、クラシカルなディテールであったりしても、軽やかなラインに仕上げていく。

 マスキュリンの取り入れ方はタイドアップしたスタイルだけでない。パンツスーツはパンツに比べてジャケットが肥大化したようなボリューム。極端に大きいラペルが深いVゾーンを作り、ラペルラインがドレープとなる。ラガーシャツもビッグサイズでシアーな素材感のマキシドレスと合わせて量感のコントラストで遊ぶ。軽やかな透け感のドレスにかぶせるビッグサイズのラガーシャツが、ストリートのガーリーなイメージを作り出す。フラットなドレスには、タンクトップを重ねたようなトロンプルイユのフラッシュカラーをのせる。前シーズンのクリエイションも評価が高かったが、秋冬はそのクリエイティビティーに軽やかな若々しさが加わった。

ルイ・ヴィトン
ルイ・ヴィトン
ルイ・ヴィトン

(小笠原拓郎、写真=大原広和

 イッセイミヤケは、パリでのインスタレーションとともに、新作動画も配信した。映像の冒頭、手をつなぐようにうねうねと連なるアースカラーのセーターが目に飛び込んできた。土の中で植物の根が外に伸びようとする生命力が描かれている。野生の美しさがクリエイションの出発点になった。その曲線セーターは、無作為に見える左右非対称のフォルムが自由で力強い。根が伸びるように脇や肩から袖が飛び出し、ケープのように着たり、袖を首に巻いたり。性別や体形を問わずに楽しめるアイテムで、往年のイッセイミヤケを彷彿(ほうふつ)させる。ほかにも、動きのあるニットアイテムが充実する。円を描くように編んだニットのビュスティエドレス、ニットを縮絨(しゅくじゅう)したボリュームコート。いずれもエレガンスと着心地の良さが共存している。アクションペイントのように大胆に描いた線、京都で引き染めした瑞々しい円の模様にもパワーを感じる。

イッセイミヤケ

 ランバンは、艶やかな光を放つ夜の服をデジタル配信した。鏡張りの回転扉の先にあるのは、漆黒のランウェー。イブニングを際立たせる会場だ。ベルベットとサテンをはぎ合わせたミニドレスに、格子状にビジューを飾ったシースルードレス。闇と光のコントラストはフィルムノワールを思わせる。肩を強調したジャンプスーツはボディーを強調し、クラッシュベロアのパンツスーツはブルーやイエローの宝石色。男女ともにセクシーであることを重視している。ラストはチューリップやユリを連想させる工芸品のようなドレス。袖や裾が、花びらのように優雅に揺れる。着想源はアールデコと古代エジプト。

ランバン

 アトラインは、パレ・ド・トーキョーでインスタレーションを行った。ギャザーやドレープで体を包み込むワンショルダードレスやTドレスなど、ボディーを強調するアトラインらしい服が揃った。ジャージーやベロアなど伸縮性のある素材をはぎ合わせてギャザーを寄せ、布の流れを生かして体に沿わせていく。過去のシーズンの衣服やバンドTシャツなどを再加工した素材で仕立てた。

アトライン

(青木規子)

 「ステラ・バイ・ステラ」、それはコラボレーションやセカンドラインの名前ではなくステラ・マッカートニーの今季のテーマだ。画家であり彫刻家であるフランク・ステラにオマージュを捧げた。そんな「着られるアート」を発表する場所に選んだのが、パリを見渡すことのできるポンピドゥーセンターのトップフロアだった。ミニマリズムから豪快なアブストラクトアートヘと変化した作風をひも解いただけでなく、フランク・ステラのニューヨークのアートシーンでの存在にも着目した。ジオメタリックなファーコートはもちろんファーは使っていない。アーティストのミニマム期の代表的なパターンはニットにも落とし込まれた。胸元を大きくカットアウトしたドレスやバルーンスカートのブラドレスは、人肌を彫刻のように取り込む。ステラには珍しいド派手なプリントがスーツを覆った。レディー・ツー・ウェアの67%が環境配慮素材。これまでのようにレザーやフェザー、ファーは使用せず、森林に優しいレーヨンやオーガニックコットン、リサイクルナイロンとポリエステルとともに、再生可能なウールが使われた。新しいモノグラムバッグは、アクセサリーを作る工場近くのワイナリーで破棄されていたグレープの廃材から作られたグレープレザーでできている。

ステラ・マッカートニー(写真=大原広和)
ステラ・マッカートニー(写真=大原広和)

 懐かしいコロナ以前の記憶が蘇った。アン・ドゥムルメステールは、かつてアン本人がブランドの指揮をとっていた頃の定番のショー会場だったエコールドメディスンでショーをした。長い改修工事を終えたこの空間に戻ってきた。深いVネックにつけ襟のようなシャツカラー、ラペル無しのマキシ丈のコートやロング丈のテーラードジャケット、さらにはバックに深いスリットのレザーのフルレングスドレスまで、繰り返しこのディテールが使われた。長く伸びるストリングスに中折れ帽、あの頃のアンのショーを見ているようだった。

アン・ドゥムルメステール(写真=大原広和)

 ロックがボンデージジャケットを作るとこんなにも繊細かつ上品になる。黒のテーラードジャケットや落ちついたフローラルコートの胸元や腕、ウエストに先がレザーになったベルトが巻きつく。しがらみに負けない強い女性たちを表現しているのだろうか。近年素晴らしい女性たちに出会ってきたというロック、一つひとつのルックが違う女性の生き方や装いを意味する。その共通項がスニーカーだ。コラージュのようなスニーカーはオフィスからファッションパーティーまでどこへでも履いていけそうだ。

ロック

 リック・オウエンスのショーが始まると、すぐに天井からスモークが噴射された。それにもかかわらず、何人かのモデルは手にスモーク発生装置を持ち、辺りは濃霧注意報から警報へと変わった。遠くからランウェーフォトグラファーたちの絶叫も聞こえてくる。集中して目を凝らさないと見えない。コレクションに集中させるにはちょうど良い演出だったのかもしれない。修道士のようにケープが肩を包むコート。肩は最近のパワーショルダーを超え、天を突くかのように高くそびえる。スパンコールドレスのボディーは折り紙のように折られ、パネルが背中へと流れている。ダウンジャケットやベストのふっくらとしたストールが背中から首を包み込む。長く伸びた袖やトレーンを引くマキシスカートなど、以前に増して細長いシルエットだ。霧の中からモデルが出てくる姿は音楽と相まってロマンティックですらあったが、見えなくても演出を押し切ってしまうリックに脱帽。

リック・オウエンス

(ライター・益井祐)

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