22~23年秋冬パリ・コレクションは、ボディーを強調したセクシーなスタイルが広がっている。ウエストをシェイプし、丸みのある腰のラインを描いたドレスやジャケット。シンプルなデザインがトレンドとなるなか、フォルムで新しさを描こうとしている。
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ヴァレンティノから鮮やかなピンクのボックスの招待状が届いた。ショーの会場となったのはカロ・デュ・タンプル。かつては屋内市場だったこの建物の中も、鮮やかなピンクの舞台にしつらえられた。ショーは圧倒的なピンクのスタイル。ベアトップドレス、ブラトップとフレアスカート、ラップコート。登場してくる全てのアイテムが鮮やかなピンクで仕立てられている。チュールトップ、パディング、グリッター、ビジュー刺繍、フェザー刺繍、様々なファブリックと手仕事の技を鮮やかなピンクで表現する。ディテールで特徴的なのは、大胆に肩やデコルテをのぞかせるもの。ドレスだけでなく、コンビネゾンのようなアイテムも大きく胸元を空ける。
ショーの後半は一転して、全身ブラックのスタイルへ。アオザイのようなスリット入りのストレートドレスやウエストをカットアウトしたブラックドレスが揃う。男性モデルが着るブラックチュールのトップもエレガント。1月のオートクチュールに続いて、ダイバーシティー(多様性)への意識を感じさせるコレクション。様々な体形や年齢のモデルをキャスティングして、それぞれの持つ魅力をヴァレンティノのエレガンスで彩った。
(小笠原拓郎、写真=大原広和)
サカイがパリに帰ってきた。パンデミック(世界的な大流行)が始まって以来、日本での発表やデジタルによるプレゼンテーションに専念していたが、昨年には「ジャンポール・ゴルチエ」のオートクチュールの1人目のゲストデザイナーとして、メゾンのアーカイブと技術を着想源にしたコレクションをパリで発表。サカイでもパリでの発表の再開の機を模索していた。ゴルチエとの協業はパリへの帰還を促しただけでなく、クリエイションにも大きな影響を与えたようだ。
シーズンを追うごとにボリューム感を増し、スタイリングが重なることで複雑になっていたハイブリッドデザインは姿を消した。よりシンプルに、よりラグジュアリーに、そしてよりセクシーに変化。シースルーのタンクトップはネックラインとアームホールをサテンにすることで上品に。マキシ丈のスカートには大きなスリットが入り、ショーツがちらつく。ジャケットを胸の上で切りウエストをベルトで閉めたビュスティエ、トレンチコートもドレッシーなビュスティエドレスに作り変える。変形テーラードは続く。ジャケットやコートはブラトップを胸元のスリットに通して一体化、ウエストの折り紙プリーツがバッスルのような大きなボリュームを作る。ショートコートは、遠めで見るとベアトップのバルーンドレスを着ているかのよう。ベージュのボディーにオフショルダーのパーツを重ねている。それはまさに、クチュールコレクションを見ているかのようだった。
意外なブランドも「セクシー」という言葉を使っていた。それはエルメスだ。これまで最上級のクオリティーでモダンなワードローブを提案してきたが、今シーズンは「ニュー・カヴァリエール」をテーマに若々しくセクシーな女性像を見せた。ジョッキーのユニフォームのようにも見えるレザージャケットはウエストラインを絞りボディーラインを強調、切り返しでストライプを描いた同素材のミニスカートもある。レザーのプリーツスカートはシースルー素材をはぎ合せて肌をチラつかせる。ショートパンツのジャンプスーツやサロペットなど新鮮なアイテムが続く。もちろんブランドのヘリテージは継承しており、カシミヤのテーラードジャケットの背中には、乗馬のサドルを模したパネルが描かれている。バゲットタイプのバッグ「ケリー・トゥー・ゴー」のストラップは、大きなスクエアスタッズやピアスのようなリングで飾られた。またケリーのクロスボディーバッグの「ダンス」のストラップの調整具も同じくスタッズに。ケリーバッグを再構築したようなデザインも登場した。
ジバンシイは、前回同様にパリの外れにある都市開発地区ラ・デファンスにあるアリーナを会場にした。外壁はウクライナカラーにライトアップされ、巨大スクリーンにはブランドからのメッセージが映し出された。階段を上る大掛かりなステージ、ショーがスタートしてもモデルがなかなか現れない。するとガラス張りになった床にチラチラと人影が見え隠れ。ランウェーは二階層になっており、下階でもドラマが繰り広げられていたのだ。前シーズンのクチュールを意識したような構築的なコレクションに比べると、よりマシュー・ウィリアムズらしいストリート色の強いデザインから始まった。古着風のグラフィックTシャツはクロップト丈など着丈の違うものをレイヤーリングし、スカートはストッキングを留めるベルトのようなディテールが付いている。シフォンのスリップドレスの裾を大量の小さなラッフルが覆い、パールビーズがフリンジドレスを形成する。クチュール的要素が見えるかと思えば、急にデニムのストーリーが飛び入り。テーラーリングは男女ともにマキシ丈、レザーのサイハイブーツとともにゴシックな印象だった。
(ライター・益井祐、写真=大原広和)
2シーズン目のVTMNTSは、デムナ・ヴァザリアの弟グラムが手掛けるブランド。22年春夏メンズコレクション期間中に「ヴェットモン」からデビューした。ジェンダーにとらわれず、コンペティションやセレブリティーに依存しないブランドを目指し、「新たなブランドのあり方を模索する」という。ランウェーに登場したのはデビューコレクションと同様、髪の毛を短く刈り上げた性別を感じさせない男女のモデル。アイテムにも男女の差異は全くない。冒頭に並んだのは、ストリートのムードが混在するテーラーリング。タートルネックトップに、かっちりと肩パッドを入れたダブルブレストジャケットとグローブ。大きな肩とシェイプしたウエスト、赤と黒、ベージュと紫など、フォルムや色のコントラストがテーラードスタイルをポップに彩る。ヴェットモンが得意としてきた、定番アイテムのバランスを崩す手法も引き継いでいる。ジャケットの上にはクロップト丈のダウンジャケット、スラックスはサイドスリットがフレアを描く。バランスを遊びつつ、崩しすぎることなく、きれいにまとめている。ヴェットモンよりも間口の広さを感じさせる。
ジャンバティスタ・ヴァリは、いつものスイートなスタイルに未来的なエッセンスをプラスした。ハイウエストで切り替えたミニドレスは、ピュアな雰囲気のペールピンクやミントグリーン。白いタイツや大きなリボン、壁紙風の花柄で甘く愛らしく彩っていく。クラシックをベースにしたスタイルに、次第に人工的な光沢が加わる。スパンコールのボディースーツに、エナメルのサイハイブーツ、グリッターのアイシャドー。オールバックにしたつやつやの濡れ髪も、どことなく未来的な透明感がある。
コペルニは、軽快なミニスタイルを見せた。頭からすっぽりかぶる変形ジャケットやケープに、ヒップがぎりぎり隠れるミニスカート。全てを覆い隠すトップと大胆に肌を見せるボトムによる、極端なアンバランスが楽しい。ニット帽とベルテットコートの防寒スタイルも、ウエスト部分がぱっくりと開いている。中心は黒、白、デニム。イエローのファーコートやスカイブルーのニーハイブーツといったきれいな色が透明感をプラスする。
(青木規子)