22~23年秋冬パリ・コレクションは、ビッグブランドのファンタジックなショーが相次いだ。コンセプチュアルな演出で見せるフィジカルのショーで、服の力をアピールした。一方、日本のブランドはデジタル配信を軸に、現地で展示会も開催した。
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見覚えのある大きさの箱を開けると、中にはスクリーンがボロボロのiPhoneが入っていた。その裏面にはショーの詳細とゲストの名が刻印され、〝360°ショー〟と名付けられていた。バレンシアガの会場に入ると巨大なガラス張りの円形空間がゲストの席で囲まれていた。座席にはウクライナの色のTシャツと1冊のノート。93年にロシアがデムナ・ヴァザリアの祖国ジョージアに進攻したことで、難民となりその経験は今もトラウマになっている。ショーをキャンセルしようと思ったともいう。ウクライナの今置かれている状態は他人事ではないのだ。
ショーが始まると円形ガラス劇場の中は猛吹雪となった。戦火を逃れるためにそんな状態のコーカサスの山を歩いた難民もいたのかもしれない。正直なところ、暴風でコレクションのシルエットを確認するのは難しい演出ではあった。アシンメトリードレス、片腕はタイトフィット、もう半面のバッドウィングは足元まで伸びる。テーラードジャケットやコート、ブルゾン、アウターは得意のオーバーサイズ。フローラルプリントも健在、ウエスト中心にドレープが上下に流れる。ボディースーツも多く、中でもブランド名をがつづられたテープを体中に巻いたようなデザインは、来場したキム・カルダシアンが着用しており、ソーシャルメディア上で注目を集めた。中には下着にタオルを肩から巻いただけのルックのモデルも。雪を保つために実際に気温を低くしており、その寒々しい感じは真に伝わってきた。そして最後は黄色のトラックスーツと長いトレーンをたたえる水色のボディーフィットなグローブ一体化ドレス、ショーの演出でもウクライナへのサポートを強く訴えた。
会場が郊外だったために用意されたシャトルで一緒になった「エイ・マガジン・キュレイティッド・バイ」のエディター、ダン・サウレイは、インビテーションの中からまだ機能するiPhoneを集め、ウクライナに送ることを決め回収を始めていた。機能せずとも今のハイプを見ればセカンドハンドサイトで販売すれば換金でき、寄付することも可能だと考えたようだ。
ロエベのクリエイティブディレクター、ジョナサン・アンダーソンはオーディエンスのリアクションを楽しんでいるかのようだった。会場に足を踏み入れると、たわわに実る巨大なカボチャが目に飛び込んでくる。
大きな唇のビュスティエや、封じ込まれたハイヒールが透け感と伸縮性を持つ素材で作る凹凸、ヌード写真がトロンプルイユのように落とし込まれる。ジョナサンなりにトレンドの官能美を追求しているのかと思えば、おもちゃの車とベアトップドレスが一体化されたデザインが飛び出してくる。レザードレスは型押しでなびいた状態で時が止まった。3Dプリント繊維のトップはあたかもデジタルファッションを合成したかのような不思議な艶を持ち、そぎ落としたシンプルなデザインの一部を強調する。
フェルトジャケットの袖は大きく膨らみ、ネットドレスのウエストはボーンで膨らむ。トップのリブネックが膨らみ、ボンバージャケットが全体的に膨らめば、アイコンバックまでもが膨らんだ。風船のモチーフが多用され立体のオブジェがブラトップとして、ドレープのタイトドレスの間で、そしてヒールとして主張した。フィナーレに登場したジョナサンをはじめ、スタッフは全員ウクライナの色である青と黄色のリボンを胸に付けていた。
(ライター・益井祐)
アンリアレイジは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)相模原キャンパスにある宇宙探査実験棟で撮影した新作動画を配信した。テーマは「プラネット」。「宇宙で人類が活躍する未来のファッション表現を探求した」という。ショーは月面に降り立つ一歩から始まった。オマージュしたのは、69年のニール・アームストロングによる月面着陸。月や惑星を模した場所で、風船のように膨らんだ白いドレスが並んだ。丸襟やフリル襟に、パフスリーブ、フレアスカート。愛らしいディテールと無重力を感じさせる丸いフォルムが相まって、生まれたての赤子のような無垢(むく)な雰囲気を描き出す。
ドビュッシーの「月の光」をBGMに、珪砂(けいさ)の上を飛び跳ねる様子はファンタジックでもある。黒いドレスには、液晶ディスプレーのように色柄が映し出される。特殊側面発光糸をジャカードに織り込んでおり、光源のプログラムはライゾマティクスが担当した。映し出された「THE EARTH WAS BLUE」の文字には、温暖化や戦争など不穏な問題を抱えた今の地球に対する祈りが込められている。場面は月から地球へ。月面で膨らんでいた服はしぼみ、重力がかかってドレープやギャザーが生まれる。同じ服に落ち感が生まれエレガントな表情に変化した。未来への希望、美しいものを慈しむ思いが凝縮されたコレクション。
ビューティフルピープルは、1人のモデルがドア穴から部屋の中をのぞき込むシーンから始まる。そこは新作がラックに並ぶ昼のショールーム。中に入るなり、新作に着替え始める。今回の動画に華やかな演出はない。日常の空間で新作をチェックする映像をコマ撮りし、ある女性の一日を感じさせるムービーに仕上げた。
身にまとうのは、民族的な要素と、クラシックなエレガンスを融合させた服。ボリュームスカートの素朴なジャカードは、どこかの種族のタペストリーか。ヒップ部分が跳ね上がる立体フォルムに、張りのあるハンカチーフヘムを重ねていく。きものとイブニングを融合したようなドレスは、絣織。袂(たもと)の布が優雅に揺れ、背中は大きく開いている。ドレッシーなフォルムとエレガントな布の動き。ここ数シーズン続けてきた上下逆さまに着られるギミックもあるが、それ以上に描きたいスタイルが主役になった。
インスピレーション源はマドレーヌ・ヴィオネ。モデルは落ち感のあるドレープドレスを着たままソファに横たわり、次第に外は暗くなる。エレガンスと日常をいかにリンクさせるか。そんなアプローチも感じられる。
(青木規子)