22年春夏パリ・コレクションは終盤、ビッグブランドのショーが相次いだ。ブランドのオリジンを背景に、今の時代に焦点を合わせていく。そんなクリエイションが目立つ。
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〈フィジカル〉
ルイ・ヴィトンのショー会場となったルーブル美術館の通路はシャンデリアで埋め尽くされ、ベルサイユ宮殿の鏡の間のごとく、これから舞踏会が開かれるのかのようだった。そんな感覚はさほど間違ってもなかった。ドレスから大きく突き出したサイドは、モデルのウォーキングに合わせて踊っているかのように揺れる。パニエで広がるスカート部分は17世紀バロック様式のようだが、ドレス自体は1920~30年代アールデコ調。ニコラ・ジェスキエール得意のカルチャーミックスだ。80年代風のビッグショルダージャケットはボーイフレンドのもののようなオーバーサイズ。ウールだけでなくデニムやスパンコールのシースルー素材のようなイブニングはディスコナイトへと続く。ビンテージっぽい派手なサングラスは、仮面舞踏会に出掛ける騎士たちのようでもある。軍服の礼服のディテールが幾度となく使われ、大きなマントが宙を舞う。一方で、カーキのニッカボッカやボーンのないクリノリンのミニスカートなど、ウェアラブルアイテムも登場する。トランク型バッグに横長の新作が登場したほか、足元は終始ボクシング用具をサンダルにした編み上げブーツ。クラシックな要素が詰まった服とのコントラストを強調する。久しぶりに見たフィジカルショーのせいでよく見えたわけではなく、ジェスキエールのぶっちぎりのクリエイティブレベルの高さを再確認するコレクションだった。
シャネルのかつてのランウェーがよみがえった。定番会場であるグラン・パレの改築に伴い、エッフェル塔横にあるグラン・パレ・エフェメールで行われたフィジカルショー。会場の背景にはイネス&ヴィノードが撮り下ろした招待状と同じ写真が掲げられた。アーティスティックディレクターのヴィルジニー・ヴィアールは「ファッションは服、モデル、そしてフォトグラファー」と話すほど、今シーズンは写真の重要さを明言していた。ランウェーのすぐ脇にはカメラマンが並ぶ。80年代のキャットウォーク写真はランウェーに張り付きながら撮っていたが、それを再現したかのようだ。
ショーは水着から始まった。白の縁取りでハイライトされたビキニにメタルやパール使いの細いベルトでアクセントを加える。ワンピースタイプの水着にはカメリアの花をあしらったネットスカートを重ねる。キルティングバッグはビーチにぴったりのサイズ。海辺ならちょっとした買い物も行けそうな提案だ。ツイードジャケットは赤青黄のスパンコールが散りばめられる。またカラフルなストライプにはシャネルの文字を重ね、ロゴのモノグラムもドレスやセットアップにのせられた。シフォンにプリントされた色鮮やかなチョウが、フロアレングスのドレスやケープの上で軽やかに舞う。ピンクや黄色、ビビッドカラーやカットアウト、クロップト丈など、全体を通して若々しい印象を受けたが、チョウのシリーズは大人の女性の雰囲気。BGMのジョージ・マイケルの曲は、90年代当時のスーパーモデルを起用した「トゥ・ファンキー」のPVを思い出させた。しかし、いかにフォトグラファーたちがモデルを奮い立たせるために叫び声を上げても、リンダ・エヴァンジェリスタに見るような表現力が今の子たちにないようにも感じてしまった。
(ライター・益井祐)