22年春夏パリ・コレクションは、再開された日常と未来へ向けたメッセージを込めたショーが相次いだ。旅を思わせる演出、未来空間やパリの街並みでのショーで、ファッションの再開を祝っている。
(ライター・益井祐)
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〈フィジカル〉
ショーファーとランチボックスに迎えられ向かった先はパリ郊外の空港。エルメスはゲストを再び旅に誘った。円形のランウェーを囲うのは、コレクションから着想源を得たというパリ在住のアーティストの作品。旅にとって重要なのは〝軽さ〟だ。レザーでディテールを強調したキャンバスのパーカ、ミッドナイトブルーの艶が見え隠れするコットンのドローストリングドレス、スタッズ使いのオーバーオールなどレザーですら薄く軽量な物を使っている。ボートネックのトップやレザースカートの裏地とパネルには、ブランドのシグネチャーの一つであるスカーフ「カレ」のアーカイブイラストのプリントを使用した。小さなスタッズ使いやクロップトブラトップをコレクションを通して合わせるなど、若々しい印象も受ける。小さなレザーパネルをネットに並べて作り出した幾何学模様のコートやひし形のパネルをうろこのように並べたドレスなど、ランジェリーならではのぜいたくな仕事も見られた。
大きなメタルパーツをハンドルとして使ったドラム型の新作バッグが目を引いたが、サンダルに合わせたレザーのソックスも気になった。フィナーレにモデルが勢揃いすると、可動式のアートワークが開き、滑走路が出現するとともに1機のセスナが着陸した。
マシュー・M・ウィリアムズによるジバンシィの初のフィジカルショーが行われた。会場は音楽好きのウィリアムズらしく、高層ビルが並ぶパリの再開発地区ラ・デファンスにあるスタジアム。宇宙船に紛れ込んだのかと思わせる近未来的な空間が広がった。00年代後半を思い出すネオプレンがそのままだったり、テーラード素材とボンディングされたり。ペプラムジャケットや大きなプリーツスカートに構築的なシルエットを作り出した。その胸元や裾にはレースのラッフルが施され、メイドさんかゴスロリのようでもあった。ラッフルを重ねて形成したボリューム感のあるクロップトジャケットやプリーツのオーガンディにレースを重ねたちょうちんブルマなど、クチュール並みの仕事もある。
レディスに大きな変化が見られた一方で、メンズが喜びそうなアーティスト、ジョシュ・スミスとの協業も登場した。アクセサリーではソールまでニットで覆われているスニーカーや、ちまたではやりのラバーシューズのような一体型シューズが並んだ。
ランバンの見せたアンダーバストのラインを強調したミニドレスやゴッデスドレスは、プリーツとドレープがマダムランバンのアーカイブを思い起こさせた。対照的にあどけない花柄がメンズのコートやレディスのニットのジャンプスーツを覆う。ストーリーは極端に変化。ランウェーには協業とおぼしき「バッドマン」のコミック柄のシャツやスパンコールのドレスが登場した。バッドモービルの形のバッグまで出している。最後のモデルはナオミ・キャンベル。今期の欧州ファッションウィークを通してナオミでのフィナーレが多い。他にも往年のモデルが登場した。
まるでアン・ドゥムルメステール本人のショーを見ているかのようだった--長年ブランドを取り扱ってきたミラノのセレクトショップ、アントニオーリの傘下になってから初のランウェーショーとなった。メンズライクなゆったりとしたシルエットのテーラードスーツ、スカートはトレーンを引くマーメイドライン。ラペルのボタンホールやベルト、ホルスターから長いストリングが流れ落ちる。そしてパティ・スミスのような長髪のモデルたち。独特の帽子使いも復活した。ファッションウィークを前にアントワープの旗艦店がオープン、ドゥムルメステールの夫が関わっているようで、彼女の陶器のラインも取り扱っている。ドゥムルメステール本人が、一度は離れた自身のブランドにどう関わっていくのか気になるところだ。