"リスクを承知で今は粘りたい"ー森永邦彦さん

2015/12/24 06:33 更新


「アンリアレイジ」デザイナー森永邦彦さん

小笠原拓郎の聞かせて&言わせて

 20年にわたって、国内外のコレクションを見続けてきた繊研新聞・編集委員の小笠原拓郎が、いま気になる人を直撃。率直な意見をぶつけ、相手の思いや考えを浮かび上がらせる新企画です。第一弾は「アンリアレイジ」の森永邦彦さんにお話を伺いました。

 


 パリ・コレクションに進出して3シーズン。森永邦彦の「アンリアレイジ」は、新しいテクノロジーを背景にしたショーで、着実にその知名度を上げている。海外での取引先も増え、インターナショナルなブランドへと成長を続けている。しかし、周囲のコレクションへの評価とは別に、私自身は一連のテクノロジーを背景にしたコレクションに、賛否入り混じった感情を抱いている。森永邦彦と、ガチンコで話してみたかった。

 

見せ方も含め、日常と非日常を交錯させたかった

 

小笠原 いつもコンセプチュアルな服の作り方をしますね。それはコンセプトが先なのか、作っている間にコンセプトが見えてくるのか、どちらですか。

森永 毎回、必ず先にコンセプトを決めます。コンセプトを正式に決める日があって、その日に社内、工場、生地屋、演出家と全部に知らせる。ただ、その段階ではもう色々見えてないといけません。言葉としてコンセプトが出てくるのと、(技術などの)やりたいことは並行してあって、その二つが合致しそうな時に初めて決める。コンセプトが決まってテーマとして出てからは、全部それに向けて作っていく感じです。

 パリに進出した15年春夏から、三部作として“影”“光”とやってきました。16年春夏のコンセプトにしたのは、光の現象としての“反射”です。反射の現象をどうパターンとして作っていくかと、テキスタイルでどう表現するかの二軸でした。常にベースにあるのは、日常と非日常をどう洋服で表現するか。今回は、見せ方も含めてリアルとバーチャルを交錯させるような形でやりましたが、それも反射の現象を用いて導き出したものです。

 

 

森永小笠原1

 

まずはショーで他とは違うアプローチを見せる

 

小笠原 ファッションはクリエーションであると同時にプロダクトでもあります。今シーズンもそうですが、ショーやクリエーション自体としてはすごく面白いと思うんだけど、同時に服という製品です。16年春夏は、無地の服をスマホやカメラでフラッシュ撮影すると、反射で柄が浮かび上がるというコレクションでしたが、これを着ている人が常に写真に撮られるわけじゃない。ショーとしてのファンタジーと、服という製品とのバランスを自分ではどう考えていますか。

森永 今はショーと展示会での実売を明確に線引きしています。ショーではもちろん、いろんなものを追求しないといけない。まずは面白さです。なかなかファッションの面白さって表現が難しいと思うんですが、ショーとして面白いことをやりたいと今は思っています。面白いことが即実売につながって、着る人に寄り添っていくかというと、それは違います。でも、まずはショーで他のブランドと違うアプローチを見せること。それで注目を集めて、展示会でそれとはまた違うラインの洋服を売る。そこに意識的に壁を作っている部分はあります。

 もちろん、ショーが売り上げに直結しなければやる意味はありませんが、今はパリに出て、自分たちのスタンスが他とは違うということを強く出したいと思っている時期です。(ショーで見せるものと実売とが)やや距離はあるんですが、ショーによって卸先が広がっている部分もある。

16年春夏“REFLECT”から
夜道などで使われるリフレクターを応用し、フラッシュ撮影すると柄が浮かび上がる服を発表した。

 

目指すのは、新しい洋服の価値観を作り出すこと

 

小笠原 実は私は、13年春夏の“ボーン”のコレクションみたいなものが好きなんです。なぜ好きかと言うと、新しいことをしているんだけど、クチュールとか服の歴史的なものを、新しい時代のあり方として表現したと思っているから。反射したり、浮かび上がって柄が見えたりといった技術の進歩はもちろんある。でも、そういう技術を通して、どう服の新しい価値観や女性像を提示できるかっていうところまでロジックが通った時に、いいコレクションだって思うんです。ボーンの時はそれを感じました。

 

 

森永右1

 

 

森永 言っていることは非常に分かります。技術と表現とモノの完成度がピタっと合う時と、ずれる時があるっていうことは自分でもすごく分かっている。常に目指しているのは、日常の中にある洋服を違う視点から捉えること、それによって新しい洋服を作ることです。ただ、どうしてもテクノロジー的な見え方とか、ショーの派手さに引っ張られてしまう時があって、そういう時はあまり良くなくなってしまう。たまにマジシャンのように見られたり、技術博覧会として見られたりすることがあって、そういうリスクは重々承知しています。承知した上で、もう少しこの新しい技術を着地させられるように粘りたい。

小笠原 私が思うのは、技術は分かったと。そこから先、その技術を使って、どう新しい女性の美しさを出せるのか。そこを根本的に問いたくなる。ショーがしっかりビジネスのきっかけになったということで、すごく良かったと思います。でも、もっとやって欲しいっていう思いがここ3シーズンは強いです。

 

13年春夏“BONE”から
ブラックライトで光るケージの骨組みを重ねたドレスでスタートし、骨組みが徐々に服の構造の中に入り込んでいく

 

パリに来たら、みなが写真を撮ることに夢中だった

 

小笠原 16年春夏のショーは、スマホを使って誰もがランウェーを撮影する時代になっていることを逆手にとって、戦略的にやったものなら面白いなと思っていました。今はインフルエンサーがショーを撮影して、それをSNSにアップする。その際、どんなハッシュタグを付けるのかも、全部ブランドサイドが指示します。ブランドは「いいね」を拡散させようとする一方で、批評やレビューを書こうとする媒体はコントロールしようとする。ファッションは商業であると同時に時代を映す美ですから、今これが美しいかの批評や議論はあって当然だと思うんです。大手のブランドビジネスがそれをコントロールしようとすることが、今のファッションの閉塞感を作り出している気がする。

森永 発表するものとして批判されることもあるし、自分の作ったものに対して誰がどういう意見を言うかは、真摯に受け止めないといけないと思っています。そういう場所が海外にあると思ってパリに行った部分もある。でもいざパリに出たら、大御所のジャーナリストでも、みな自分の目で洋服を見ることよりも、写真を撮ってその場でSNS(交流サイト)にアップすることに力を使ってしまっている。パリでさえそうなんだなと感じたのが率直な印象です。

 僕は、アナログとデジタルの端境の時代の人間です。目で見たものにすごく感動して、それで洋服がやりたいと思った世代のデザイナーなので、だからこそショーは必要だと思っています。そういう気持ちを込めて、今回のショーでは逆説的に自分の目ではショーを見ない状況を作ってしまって、そこ(スマホの画面)に映るものにリアリティーがあるのかどうかとか、それを通してファッションのイメージが拡散していくことがこの時代どうなのかとか、そういうことが問えればと思った。

 

クリエーションの価値はなくならないと思う

 

小笠原 日常と非日常の交錯として、今後見せていきたいことは。

森永 川久保(玲)さんの世代は、実店舗をいかにかっこよくデザインして、凝縮した世界観を伝えるかということをやってこられました。でも、僕ら以降の世代は、実店舗では無い場所で洋服を買うことが殆どになっている。ECで、かっこいいクリエーションをどうビジネスとしてやれるかということを体現しているブランドやサイトはあまり無い気がしています。ECでも、すごくクリエーティブなことってできると思う。でも、そこに向かっていこうとしている人は少ないと感じています。触覚無しにモノを買うという行為で、川久保さんがこれまで強いお店を作ってきたのと同じくらいのことができたら、自分たちも納得ができるかな。

 自分にとっては、ファッションやファッションビジネスにおいて、クリエーションが一番大事。人と違うということ、人と違う視点で洋服を見ていたり、人と違う作り方をしたりということは、絶対に価値としてなくならないと思っています。それを自分ができるかできないかで、できなかったら今話しているようなことには全然ならないんだけれど。ただ、そこ(クリエーションの力)はまだ信じたいと思っています。今までにない服が生まれて、それによって新しい人間像ができて、それが消費に結び付くということがまだあると思っているし、そのためにやっていることなので。

小笠原 16年春夏シーズンで三部作を終えて、16~17年秋冬はがらっと変わりますか。テーマは既に決まっていて、もう大体、見えている頃だと思いますが。

森永 毎回、はじめは自信あるんですけどね。そこから一回「全然ダメだな」ってなって、そこを粘って抜けると行けるかなとなる。来シーズン取り上げるのは前々からちょこちょこ実験をやっていたことで、今までの流れとは全く違うことです。これは面白いなと思っていたことを、もしかしたら洋服にも落とし込めるかなって。定期的に色んな実験をしているんですが、四つくらいやっていて、一つ芽が出そう、となったり。こういうものを作りたいっていうものが、常にいくつかあるんです。来シーズンは技術がすごいっていうものではなくて、技術を使って何をするかということが問われるものになると思います。

 

 

小笠原森永正面2

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