ナイスクラップ小路社長 個の力積み重ね好循環呼ぶ

2020/01/13 06:30 更新


【パーソン】ナイスクラップ社長 小路順一さん 個の力を積み重ね好循環呼ぶ

 パルグループホールディングスの子会社ナイスクラップは、パルの小路順一氏が12年から社長を務めている。主力ブランド「ワンアフターアナザー・ナイスクラップ」は、同質化するヤングレディス市場でも一味違うテイストとSNSの発信力でファンをつかんでいる。19年3月に吸収合併したオリーブ・デ・オリーブの改善も進み、今上期(19年3~8月)の全社業績も好調だ。異なる企業文化を生かしつつ、社員の個性を引き出す経営術とは。

◇企業文化を尊重、急がずゆっくり

 ――就任から振り返って。

 特に大変だったのは初年度と2年目です。自信満々で就任して結構な赤字を出してしまった。こたえましたね。でも結果的に考えるチャンスをもらったし、そこから色々な改革を進めることもできました。

 反省点は、今までのやり方を急に変えすぎたこと。ずっとトップダウン型の会社だったナイスクラップで一気に権限委譲を進めたけれど、徐々に浸透させるべきだった。言わば、まだナイス流の勝ち方が分かっていなかったのにパル流の勝ち方を取り入れようとしてしまった。実力がまだ追いついていない社員へのサポート体制も足りなかったと思います。ただ、ここ3年ほどで急激に売上高が伸びたのは、当時権限委譲した社員が活躍しているから。本当によく頑張ってくれたと思う。自身が苦労したので、今は後輩のこともサポートしてくれています。

 思い切って権限と責任を与えないと人は育たない、でもゆっくりじっくりが大事。この反省と教訓はオリーブ・デ・オリーブと一緒になるときにも生かされましたよ。

 ――違う会社が加わる際に大切なことは。

 その会社の文化を尊重することです。18年3月のオフィス改装時にオリーブもそこに移転して、考えたのがコミュニケーションのこと。ミーティングができる区割りの部屋を作り、ランチスペースの窓際に椅子をずらっと並べるなど、ナイスとオリーブの社員同士も交流しやすくしました。

 オリーブは初年度からかなり利益が出たのですが、コスト削減に加えて、以前と同じメンバーでも適材適所にしたことが良かった。長所を見て担当業務を変えたのですが、得意なことだと人は生き生きします。オリーブは体力は付いてきたので、今後は高感度なファッションビルにもっと出店できるような個性を出していきたい。

 ――人材の活躍について。

 販売が苦手でも、いやこの業界だと販売が苦手なのは駄目なんだけど、インスタグラムが上手な子はそれを思い切りやったらいい。販売はプロフェッショナルだ、VMDが得意ですという子もいる。完璧な人はいないし、(いても)面白くないでしょ。長所を伸ばし、それぞれの個を積み重ねていきたい。当社では5000人以上のフォロワーがいたらインフルエンサー手当、あと個人売り上げの手当もあります。ノルマだと陰気だから、あくまで頑張った人にプラスアルファの評価をすると皆すごく頑張ってくれる。

 お金の面だけでなく、年間の表彰もうちの社員たちは好き。オリーブの子も表彰台に上がりたいと仕事のモチベーションになっている。皆、評価されたいし褒めてほしいんですよ、私だって褒めてほしい(笑)。

 店長へのインセンティブは、現状もあるけれど拡充すべきと感じています。花形だけれど、プレッシャーもあるしマネジメントもしないといけない。下のスタッフから何か言われたりもする。でも、大変だけどすごくやりがいのある仕事。

 ――店長になりたいスタッフを増やすには。

 人のために働かないと成長は無いといつも言うのですが、それこそが店長というポジション。今まで自分のことしか考えていなくても、「(店舗スタッフの)この子の良いところはどこかな?」という発想に変わるわけだから。新任店長の研修には力を入れていて、私も社長自ら熱く語るようにしています。

 ――業界全体に人手不足と言われるが。

 実はうちは、人材不足はあまり感じていないんです。以前は確かに厳しかった。でも今はブランドの人気が出てきてSNSのフォロワーも増え、ファッション性の高い志望者が多くなった。これがブランドのバロメーターなのかもしれない。人気が出るとすべてが好循環になる。

◇人と人を結び新しい刺激を

 ――今の消費をどう見る。

 どんどんジャストニーズになっていて、若い人はトレンド物は安いところで買う流れも強い。我々にとっては厳しいこと。個性のあるものをやっていかないとブランドが劣化してしまう。ワンアフターは以前に比べて提案するファッションの幅を絞っています。売り上げを取ろうとすると色々な人に受けるものに流れがち。でも我々はディレクターの個性を打ち出すことでブランドが明確になり、ファン層がしっかりできた。

 待っていても駄目だから、緻密(ちみつ)なMDカレンダーを作り、売り上げの山を自ら作るようにしています。外すこともあるけれど、今年の春はほとんど当たりましたね。秋にはワンアフターで12色の〝にじいろニット〟を打ち出し、ウェブで即完売しました。色数のインパクトに加え、ブロッコリー、サクラモチなど遊び心のあるネーミングも良かった。回転率や鮮度を上げ、プロパー消化率を追求したい。

 ――個性を生かした新しい提案も。

 ワンアフターで働いていた2人の社内インフルエンサー、通称「#さかりか」のプロデュースで19年にスタートした「ぺティート・バイ・ナイスクラップ」がめちゃくちゃ売れています。3カ月くらいに1度のペースでネット予約や店頭で新商品を出し、売り切れ御免。10月にはパルの「ベースヤードトーキョー」の店で先に発売したところ、初日に100人前後の行列ができるほど。こういう成功例はほかにも増やしていきたい。

社内インフルエンサーがプロデュースする「ぺティート・バイ・ナイスクラップ」

 ――兼務の仕事を抱えている。

 20年ほど前、パルの東京支社を作らせてほしいと自ら手を上げてやって来た。以来長年、毎週大阪と東京を行き来する生活を続けています。確かにハードワークですけど、今はナイス、パル、加えて(パルグループホールディングスが資本業務提携した)ノーリーズ、それぞれの良いところをほかの会社に取り入れることができる。自分がハブになり、この人とこの人をくっつけたら良い刺激になるんじゃないかと考えて食事会をセットしたり。そういうことも立場上スムーズ。

 ――それも重要な役目。

 きらきらしている人と話すのが楽しい。その人に、もっときらきらした人を紹介したらさらにきらきらする。人が好きですね。やっぱり人。個性。それをどう引き上げていくかが大事だし、でも大きい組織になるほど難しい。パルでは人材発掘の方法の一つとして、スマホからぱっと、動画や写真でも自分がやりたいことを本社に応募できるようにしたんです。以前は紙での応募だった。初回から結構面白い事業アイデアが出ていて、ナイスでも制度導入を検討したいです。

 個性が大事。でもそれだけの会社だと、売れた時に自分一人の力でやったと勘違いして天狗(てんぐ)になり、組織が乱れる。チームでやっているんだから、個性やスキルだけでなく周囲への思いやりも大事にしてほしい。そこで3年ほど前から、人間力を高めるためのMPU(マンパワーアップ)研修というものを実施しています。

 ――これからの方針は。

 今回初めて、5カ年計画を立てました。従来は自然体で、今年をベースに来期のことを考えていた。でも、例えば今伸びているECでは急速に人員を増やしていますが、どこにいくら投資するか決めるには先々の数字の計画が必要。逆算で、今何をすべきかを考えたい。

 店舗政策は慎重に判断はしますが、出店は止めません。ECが上期48%増と非常に伸びていますが、既存実店舗も7%増と良い。ECやSNSを見てリアル店に買いに来てくれる、良い相乗効果ができています。ワンアフターのSNSのフォロワーは、公式、個人合わせて100万人を超えました。さらにオムニチャネル化を加速させます。そのスタッフがおしゃれだから、ファンだから、あくまで個性を生かして売るのがうちのやり方です。

 5年後から逆算すると、ニーズに合った新ブランドの開発も必要。アパレルなのか、コスメなのか、あるいはまた別のジャンルなのか。新ブランドは立ち上げます、必ず。

■ナイスクラップ

 82年創業のレディス企画・製造・販売業。当初は専門店向けの卸販売が主力だったが、85年に東京・原宿に直営1号店をオープン。90年代初頭に直営店の多店舗化を進め、業績を急拡大させた。パル(現パルグループホールディングス)とは02年に資本業務提携、05年に連結子会社となり、15年に完全子会社化。ヤングレディスカジュアルの「ワンアフターアナザー・ナイスクラップ」をはじめ、「ナチュラルクチュール」「ピュアルセシン」「ウヴラージュクラス」などのブランドを運営する。19年3月には同じくパルグループのオリーブ・デ・オリーブを吸収合併し、「オリーブ・デ・オリーブ」も扱うようになった。合併前の19年2月期の業績は売上高約116億2000万円、営業利益約5億4000万円。

しょうじ・じゅんいち 1963年生まれ。86年パル(現パルグループホールディングス)入社、01年同社取締役(現専務執行役員)、04年マグスタイル取締役(現代表取締役会長)。ナイスクラップでは04年取締役、12年から現職。15年倉敷スタイル取締役(現執行役員社長)、16年パル取締役(現専務執行役員)。

《記者メモ》

 難しい言葉はあまり使わず、聞き取りやすい口調で、いつもざっくばらんに話してくれる。会社や組織を超えて色々な人同士を引き合わせる役目を果たしているというのも納得だ。

 ファッション業界では企業やブランドの再編が続いている。同業他社へ移る人も多い。うまくいくケースもあれば、物別れに終わることも。そもそもの相性以外では何が大切なのだろう。そんなことを考えながら今回の取材に臨んだ。

 取材では企業文化の尊重や権限移譲というキーワードが出てきた。組織において、自分と違う考えや相手が不得意なことを受け入れることは簡単ではない。しかし、「長所と短所が極端な方が可能性を感じる。長所を伸ばしたらいい」。さらに、「ちょっと売り上げが悪くても目先のことは言わない。半年、1年先のことを話すようにしている」とも。相手の能力を引き出せるかは、仕事を任せる側の心の構え方次第。そういう余裕も、経営者としての強みに思えた。

(石井久美子)

(繊研新聞本紙19年12月20日付)

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