仮説を仮説のままで終わらせないために(柏木均之)

2015/03/16 15:06 更新


柏木です。

ここに書くのはほぼ1年ぶりです。大変ご無沙汰です。

業界紙である弊紙を含め、記者というものは、世の中で起こっていることを眺め、重ね、つなげ、仮説を見つけ出し、そこから取材を進め、まとめ、ニュースとして報道する、という仕事をしています。

ただ、一般の視聴者や読者向けのマスメディアの場合、業界紙に務める我々とは違った視点や発想をお持ちのようです。

 


 

先日、こんな問い合わせがありました。あるテレビ局の記者を名乗る方からでした。増税後のファッションの消費動向の変化について取材をしている、と。

あくまで下調べということで、上記内容について聞かせてほしいとのことでした(繊研新聞には、こういう感じの問い合わせが結構、頻繁にあります)。

昨年、消費税が5%から8%に上がった後のファッション消費の変化については、弊紙でも折に触れ、何度も関連したニュース記事を載せているので、そこでの報道内容に沿ってお答えいたしました。

やり取りは以下のような感じでした。

 Q. 昨年の消費増税後、ファッション消費にどんな影響があったのですか?

A. 消費材の中でも、食品や家電などに比べ、不要不急の度合いが大きい、ファッション消費には、駆け込み需要がそれほどないというのが、業界の見方でしたが、実用衣料だけでなく、トレンド性を意識した商品に関しても、3月末には駆け込み需要が想定以上にありました。翌月から同じモノの値段が上がる、ということを感じた消費者が間近になって反応し始めた、ということでしょう。

Q. その後の反動は?

A. 4、5月には反動は予期した程度より軽微でしたが、6月、7月になるにつれ、3%分の増税の影響がじりじりと出てきました。理由はいくつかあります。

 


 

①増税以外に、円安の影響で商品の仕入れコストが上昇、それを小売価格に転嫁する動きが広がり、3%以上にモノの値段が上がった

②多くの小売業は税込みの総額表示ではなく、税抜きで価格を表示したため、実際に払う、税が加算された価格に対する割高感を感じる消費者がけっこういた

③以前からファッション市場では供給過多が続いているうえ、ここ数年、夏のセールの集客力が低下しており、そのため、6、7月の販売が例年より盛り上がりを欠いた

④株価上昇に伴う資産効果の恩恵を受けた層は人口比で見るとまだまだ少数で、大半の消費者の賃金は上がったわけではない。可処分所得が増えないのに、ファッションの値段は上がったため、慎重に選ぶ消費者が増え、実購買も減った

 Q. なるほど、ところで、今、フランス人は10着しか服を持たないという本が売れていますよね。

A. は?

Q. そういう本が売れているということは、ファッションの値段が上がって、日本の消費者が服を思うように買えなくなったことのフラストレーションが関係しているのではないか、という見方があると思うのですが。

A. ???…えーっとですね。その本がどういう内容なのかはさておき、最低限のワードローブで日々の服装をお洒落に見せる、という趣旨であるとするなら、その類の本は、これまでにもありましたし、増税後のファッション購買に関する消費者の変化と、その本が今現在売れているということの相関関係については、正直分かりかねるのですが。

 そう話すと、詳しい本取材をする場合、また、連絡するかもしれません、と言って、問い合わせの電話は終わりました。

推測するに、問い合わせの主は、ベストセラー本のタイトルから想起したことと、日本市場で増税の影響がファッション消費に及んでいると言う現象を、何とか組み合わせ、ニュースに仕立てたかったようです。

その後、仮説に取材で肉付けし、今のマーケットの状況を正しく捉えた形に整え、あるいは、どこかの番組で放送されるのか、知る由もありませんが・・・。 

増税による売れ行きの鈍化があったにせよ、市場に消費者が望む以上の量のファッション商品が供給されている状況はそれ以前からあり、市場で選ばれない、買われない服、ブランド、店というのは存在する。

でも、そういう状況の中でも売れる店や服やブランドが、ジャンル、価格帯、規模を問わず必ずある。

成熟市場の日本は、消費者のファッションへのスタンスも多様だ。服を10着しか持たない人も、10着以上持つ人も、そのどちらでもない人だっている。

それぞれの比率は時代ごとに変わるが、特定の本が売れることより、時々の社会情勢や生活環境、個人の嗜好や経験による影響のほうが大きいのではなかろうか。

こちらとしては、お問い合わせの内容に関して、後でこんな風に考えました。



 

 ところで、マスコミに限らず、ファッションビジネスで働く場合においても、「世の中って今、こういう風に動いているのかも」っていう思いつきや気づきは大事です。仮説を他に先んじてビジネスのアイデアに昇華させたところが、成熟し、飽和した市場をリードしています。

勝ち残るためにも、仮説の検証の際は、鮮度と精度を併せ持つ情報を常にチェックしておく姿勢が不可欠だと思います。

というわけで(長くなりましたが)、今月いっぱい、繊研新聞は春の購読申込みキャンペーンを実施しています。

今月中にお申込みいただくと、ライバルに差を付けたいあなたのお役に立つ特典のプレゼントもご用意いたしました。

この機会にぜひ、読んでみてください。

よろしくお願いします。

ではまた。




かしわぎ・まさゆき 20余年にわたり、川上から川下まで取材をしてきた記者が1億コ(自己申告)のネタから選りすぐりを披露します。編集部記者。92年入社、大阪支社で商社など川上分野とアジアを長年取材。02年に東京本社転勤、現在、セレクトショップや外資系チェーン店などを担当。統計資料なども司るデータ番長




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