靴下メーカーの三笠は、来年夏の稼働をめどに奈良県大和高田市に新工場を建設中だ。レッグウェア業界の国内供給量は12億足強。このうち、国産がまだ11%を占めており、他のアイテムと比較すれば健闘している方だ。それでも、更地から工場を新設する動きは近年まれに見るケースだ。
当初は25年に完成する予定だったが、大阪・関西万博による建設資材の高騰や人手不足などの影響を受けた。それ以上に想定外だったのが遺跡の出土だ。建設予定地から、弥生時代の井戸跡が二つ見つかった。建設を急ぐ時は、発掘・調査費用は全て自腹となる。同社も相当な費用がかかったという。
公表されている奈良の遺跡マップを確かめてみた。さすがに〝まほろば〟の地だけあって、周辺は遺跡だらけ。今回は、集落から離れた場所にある弥生時代の井戸遺跡のみだったが、少し離れた場所になると、縄文から奈良、平安、鎌倉、室町と日本の歴史が積み重なっているような場所も少なくない。そうなれば、発掘調査に膨大な時間と費用がもっと掛かったことだろう。
新工場は新鋭機を揃えた最新工場にする予定だが、生産機能だけでなく、地域社会との共生や産業ツーリズムを意識する。井戸の発見は地域とのつながりを深める好機。古代から連綿と続く歴史の上に、新たな靴下産業の歴史を積み重ねていきたい。
