《めてみみ》服好きはときめきを求める

2025/04/17 06:24 更新


 京都に行ったら必ず伺う店がある。古いきものの端切れで小物を作る店で、茶道で使う古帛紗(こぶくさ)などを販売している。素敵な布との出会いもさることながら、布の歴史をよく知る店主の話が聞きたくて通うようになった。

 前回は小さな野花が描かれた赤い布の話が面白かった。江戸時代のきものやそれ以前の陣羽織の端切れなど、純和風の布が多い中、それはどことなく西洋的。目にした瞬間からどんな物語があるのだろうと興味が湧いた。

 聞くとそれは、江戸中期に長崎の出島から日本に入ってきた西洋のものだという。なるほど「リバティ」プリントのような愛らしさはそのせいか。当時は布団を覆っていたそうだが、超高級な舶来品だったので使われた形跡はなかったそうだ。

 そんな話を聞いていると、知らぬ間に脳内はタイムスリップ。店主の愛情ある語りのおかげで、大切に使われていた当時の風景が目に浮かび、わくわくとともに赤い布を購入した。

 少々時間がかかっても目当ての店で店員との会話を楽しみ、高揚感とともに購入する。その時間そのものが、買い物の目的となる。草創期のセレクトショップがそうだったように、最近の服好きもこだわりの古着店に通い詰めて店員との話を楽しんでいると聞く。ネットショッピングは便利で良いが、それだけでは味気ない。服好きはときめきを求めている。



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