《めてみみ》物を作る喜び

2024/10/03 06:24 更新


 欧州の25年春夏ファッションウィークが終わった。良かったブランドの一つは「ボッテガ・ヴェネタ」。手仕事いっぱいの新作には、ポジティブな気持ちがあふれていた。

 ショー会場にはネコやクマ、ウサギ、ニワトリといった動物をかたどったレザーのクッションソファがずらりと並ぶ。それに抱かれるようにすっぽりと体を預けると、誰もが顔をほころばせた。その愛らしさは疲れを癒やすかのごとく。童心に帰る思いがした。

 冒頭のパンツスーツは、子供がお父さんの服を着てしまったようなオーバーシルエット。レザーのフリンジドレスはよく見ると新聞がプリントされている。スマートでエレガントな服の随所に、ユーモアが隠れている。レザーテープを細かく編んだシグネチャーバッグには、小さな花のレザーパーツがたっぷりと飾られていた。原っぱで子供が野に咲く花を摘んでいる姿が頭に浮かび、空想の世界に導かれる。展示会では見る人みんなが穏やかな表情を浮かべていた。

 手仕事がトレンドとなる昨今。超絶技巧が注目されがちだが、それだけではクリエイションとは言えない。手仕事を土台にして独自の世界を提案し、人の心をどれだけ動かせるかにかかっている。そういった意味でも、クリエイティブディレクターのマチュー・ブレイジーの仕事は見事。物を作る喜びを感じた。



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