路面店で働いていた販売員が、商業施設内に入居する店舗に勤務することになった。じっくり時間をかけて接客する余裕のあった路面店とは違って、ターミナル駅に隣接する施設内の店では、入店客数がけた違いに多かった。
週末や休日、セール期間、平日でも夕方や全館で販促キャンペーンを行っている時は、シフトに入っている人数では対応しきれないほど混雑した。時間帯によっては多重接客を強いられる場面もあったが、その販売員は可能な限り丁寧な接客を心がけた。
客と話している時間が長くなると、先輩から「商品説明以外の雑談は短めに」と指導された。試着室待ちが多い時は、同僚に「フィッティングを早めに切り上げるようにお客様を促した方が良い」と助言された。しかし、安くはない服を売る店だったので、客が納得するまで接客するスタイルはなかなか変えられなかった。
接客時間が長いと、対応できる客数はどうしても少なくなる。異動後しばらくは個人売り上げが平均を下回っていた。だが、日を追うごとにその販売員目当てに再来店する客が増えていった。
1年ほど経つと個人売り上げは、短い時間で多くの客に応対する販売員と変わらなくなった。話をちゃんと聞いて、相手の気持ちに寄り添った提案をしてくれる販売員がいると客は心強い。混み合う店なら、なおさらだ。