全国的に高温が続いた8月が終わり、東京でも秋の気配が漂い始めた。セミの声は消え、公園や草むらから秋の虫の声が聞こえてくる。四季を感じにくくなってはいるが、虫の声は季節の移り変わりを知らせてくれる。
チンチロリン、リインリン、キリキリキリ、ガチャガチャ、スイッチョン。唱歌「虫のこえ」にあるように、秋の虫は個性あふれる音を奏でる。虫の声を聞くと、畑に囲まれた田舎で過ごした子供時代の夜の情景を思い起こす。
虫が奏でる音を声と認識するのは、日本語とポリネシア諸語を話す人だけだそうだ。どちらも母音を中心とする言語(母音言語)という共通点がある。母音言語では、人の話す声などを理解する左脳(言語脳)で虫の声をとらえる。一方、多くの他の言語では、音楽や雑音、機械音などを処理する右脳(音楽脳)でとらえるという。波の音や雨の音、風の音、川のせせらぎなども同様とか。
「日本人の感性」や「日本独特の美意識」としばしば言われる。漠然とした表現ではあるが、虫の発する音を声ととらえる言語と脳の関係も、独特な感性や美意識を形成する一端を担っていると想像がつく。
当たり前と思っていたことが、外の世界では意外なオリジナリティーを発揮することがある。虫の声を楽しみながら、感性を磨く秋にしたい。