「時」を表すギリシア語に「クロノス」と「カイロス」がある。時計のように規則的な時を刻むのはクロノス、「今この時」というような瞬間的な時を指すのがカイロスだ。カイロスは、ギリシア神話に登場する神。前髪だけが生え、後ろ髪が無い。通り過ぎてしまうと後ろ髪はつかめないため、チャンスや機会の神ともされる。
コロナ禍以来、大企業のトップから「非連続の成長」という言葉が聞かれるようになった。予測できない出来事が次々と起こる時代。過去の歴史や成功体験の延長では、成長は望みにくい。過去を断ち切るような発想の転換を行ったり、ゼロベースで新規事業を立ち上げたりといった意味でしばしば使われる。
中小企業も心構えは同じだ。ある産地メーカーの社長は、様々なコストアップのなか、主力のOEM(相手先ブランドによる生産)の厳しさを訴える一方、DtoC(メーカー直販)の自社ブランドを懸命に育てようとしている。「このチャンスを絶対に逃さない」と繰り返す。
安定成長の時代は、人・物・金に優位性を持つ大手企業が力を発揮しやすいが、非連続の変化が次々と起こる時代には、その優位性も揺らぐ。コロナ下でも、クロノス時間は当たり前のように過ぎていく。企業規模の大小を問わず、カイロスの神を見極め、手離さない執念が明暗を分ける。