約10年前に高名な英国人デザイナーと会食した話を、ある経営者から聞いた。彼女が70歳ぐらいのこと。長年のキャリアがあるため、「いつのコレクションがベストでしたか」と聞くと、「次のコレクションよ」と答えたという。今より次の方がもっと良いという話にいたく感銘を受けたそうだ。
彼女ほどキャリアがあると回顧展のようなものも何度も行われているが、ほとんど顔を出さないらしい。過去に引きずられるのを是としない気骨がうかがえる。
デザイナーの話に触発されたのか、経営者は国内の大学院博士課程に身を置き、専門ではない理系で苦労しながら最先端技術を学んでいる。自分が経営する店も昨年、従来のビジネスモデルにとらわれない形態に変えた。
22年が始まった。途端に変異株の感染拡大で再びどんよりした雰囲気が漂う。地中海の島国では新たに既出の二つの株が結合した最強の「デルタクロン」が発見されたというからやれやれだ。今日よりいい明日が本当に来るのかと考えてしまう。
とはいえ縮んでいても仕方ない、と思いたい。環境はどうであれ、きっと彼女は次も自分史上最高の作品を出そうとするだろうし、経営者も授業に食らいついていくはずだ。そして、昨日よりもっと良くなっているはずと信じて今日の店の扉を開くのだろうから。