《めてみみ》香りの記憶

2021/11/05 06:24 更新


 秋の香りを代表する金木犀(きんもくせい)もそろそろ終わりだろうか。人は季節の移り変わりを香りで感じることがある。春に漂う沈丁花の香りは出会いと別れの季節の記憶を呼び起こす。

 香りと記憶が結びつくのは、脳の仕組みと関係がある。嗅覚(きゅうかく)は人の五感の中で唯一、記憶をつかさどる海馬という脳の部位にほぼ直接的に信号を送れる。嗅覚からインプットされた情報が、喜怒哀楽を統率する大脳辺縁系へ信号を送り、そこにある海馬や扁桃(へんとう)核が反応を起こすという。

 香りと記憶の関係もあってか、香水は古くから人々の生活とともにあった。中世ヨーロッパでは入浴の習慣がなかったことで発展した。デザイナーブランドで香水を本格的にビジネスにしたのは「シャネル」だろう。1921年に作られた「ナンバー5」は最も有名な香水の一つとなり、デザイナーブランドにとって服のほかに化粧品や香水がビジネスとなることを示した。

 新時代を感じたのは、16年に香水を再スタートした「ルイ・ヴィトン」の発表の場でのこと。パリの店舗でリフィル(詰め替え)を始めると明らかにしたからだ。残念ながら日本には未導入だが、パリでは今や他ブランドでもリフィルが広がっている。香りの特性と優れたボトルデザインが香水には不可欠。そこにリフィルが新定番となりつつある。



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