《めてみみ》生きやすい世の中

2021/03/18 06:24 更新


 真っ赤な装丁が目を引く書籍『武器としての「資本論」』。混迷の時代を乗り切るための羅針盤を探したくなるからか、資本論を取り上げた本が売れているという。この本に刺激を受け、解き切れない疑問を抱いていたところに、著者の白井聡氏の講演会が開かれるとあって出かけた。

 リモートを併用した会場に集まったのは90人ほど。講演の前に、リーマンショック後の08年にブームとなった小説『蟹工船』の朗読を、という趣向があったのだが、準備する2、3人の女性が手間取っていた。すると「美人が準備中です。しばらくお待ちください」と司会者の声。会場から追随する笑いが起こることはもちろんなかったが、抗議の声も出なかった。

 辞任にとどまらず、ジェンダー(社会的性差)の問題に広がった女性蔑視発言から間もない時期なのに。公的な会議ではなく、講演に付随したイベントでの出来事とはいえ、女性を性的に評価することに無頓着な司会者、そしてそれを感じながら下を向いたままだった自分の情けなさ。

 世界経済フォーラムが公表したジェンダー・ギャップ指数によると、20年の日本の順位は153カ国中121位。「美人…」の軽口に自覚的になり、一人ひとりの意識を変えていくことが、世界への後れを取り戻すだけでなく、生きやすい世の中を作ることにつながる。



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