《めてみみ》五感の渇望

2021/03/12 06:24 更新


 21~22年秋冬デザイナーコレクションは例年通り、パリまでの日程を終えた。コロナ禍でロックダウン(都市封鎖)中の都市もあり、前シーズンとは違ってほぼデジタル映像で発表された。ミラノではわずか1ブランドがフィジカル(リアル)のショーを開催したのにとどまった。

 3月15日からは、楽天ファッション・ウィーク東京21年秋冬が始まる。51ブランドが参加、うち約40%の20ブランドがフィジカルで発表する。こうなると人数を絞りながらもフィジカルのショーや展示会ができる日本の状況が際立つ。

 ほぼ1カ月間、デジタル映像でコレクションを見続けていると、デジタルで伝えられることと伝えられないことが明らかになる。シーズンのイメージやコンセプトは伝えられても、服の質感は伝えられない。パソコンをのぞき込んで取材していると、次第にいらだちが募る。それは服の実体がつかめないからだ。

 フィジカルの展示会で服に触れる、羽織ることで感じられる質感は人間にとって、とても大切だと改めて思う。ダブルフェイスウールのしっとりとした風合いや丁寧なリバー縫製の仕上がりにうっとりする。レースのなまめかしい透け感に心を奪われる。服の放つ力には、物作りへの人々の情熱がこもる。その豊かな熱量を五感で感じることに渇望していたのかもしれない。



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