東京の有楽町で4月、ある店が閉店した。ガード下の自動販売機で酒を売るセルフの24時間営業の立ち飲み屋だ。朝から昼にかけて夜勤明けのリムジンドライバーやホテルマン、夕方はサラリーマン、夜は近隣の小売店で仕事を終えた販売員が使っていた。
家路に着くまでのわずかな時間に、軽く一杯楽しむのに都合がよかったせいか、週末には狭い店が袖の擦れ合うほどの人でにぎわい、偶然に隣り合わせた見知らぬ同士が意気投合する、なんてこともよくあった。
かつて店主に聞いたことがあるが、もう何十年も同じ場所で営業していたそうだ。「人件費もほとんどかからない、ローコスト経営だね」と話していたのだが、地権者が再開発を決めたらしく、立ち退きを余儀なくされた。
最悪だったのはタイミングだ。感染拡大で客足が遠のいていた3月末に閉店を知らせる小さなチラシが貼り出され、緊急事態宣言が出た4日後に営業を終えた。閉店を惜しむ常連が最終日には結構な人数が来たようだ。
夜8時を過ぎた頃に来るのが常だった近隣の服屋の店員の多くは、自分の働く店が休業中の出来事だったため、営業再開後に閉店を知ったらしい。普段は気に留めることもない、だが大切な日常の風景の一部が、知らぬ間に切り取られるように消える。それもコロナ禍の怖さなのだと思う。