《めてみみ》第三の日本

2020/04/30 06:24 更新


 奈良県御所市の西、金剛山地の裾野に名柄という集落がある。往時は東西南北の街道が交わる要衝として栄えた。今は時が止まったような街並みが残る。近年は、その静かさが逆に評価されてか、近隣の古社と合わせて街歩きする人が増えてきた。明治時代の郵便局を再生したカフェや、名水を生かした手作りの豆腐屋なども人気だ。

 名柄は、昨年亡くなった堺屋太一氏が小・中学校を過ごした場所でもある。郵便局は同氏の実家である池口家が、郵便局長を務めたという。カフェに再生した時も、資金面のバックアップを含めて協力を惜しまなかったと聞く。

 堺屋氏といえば、旧通商産業省出身。多くの国際博覧会を手掛け、経済企画庁長官も2度務めた。作家や評論家としても活躍し、「団塊の世代」という言葉を広めたことでも有名。戦後の経済発展の申し子のような経歴だ。

 その一方で、晩年は中央集権体制や経済効率優先の社会に対し、数多くの警鐘も鳴らした。遺作となった著書では、幕末、第二次世界大戦後に次ぐ「第三の日本」を作り直そうと訴えた。さすがの氏も今回のような事態は予想もしなかっただろうが、これから時代は大きく変わる。新しい社会を予測するのは難しいが、過去の教訓を生かすことはすぐできる。切り捨ててきた物事の中に意外なヒントがあるのかも知れない。



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