ネットとスマートフォンの普及に伴い、現代の消費者は豊富な情報を使い、賢く買い物するようになった。そういう分析を取材先で聞くことがここ数年増えていた。だが、昨今の状況を見ていると、必ずしもそうではないように思う。
ほんの数週間前までトイレットペーパーを買うために、近所のスーパーやドラッグストアに、毎朝並ぶ人たちが多く見られた。在庫は十分にあると製紙会社もメディアも伝えていたが、不安に駆られた生活者は、店の前に列を作って買い求めた。
昭和の時代、石油ショックの際のニュース映像を見たことがある。デマに踊らされ、トイレットペーパーを買いに走る様子は、現在のそれと酷似していた。気持ちの余裕がなくなると、人間は同じ行動を繰り返すようだ。
緊急事態宣言が連休明けに解除され、自粛要請が緩和されるのか、あるいはさらに延長されるのか、今の段階でどうなるかはわからない。だがどちらにせよ、人との距離を取って注意深く暮らさねばならない時期はしばらく続くのだろう。
我慢して過ごす日々が終わった頃には、生活者の価値観は変わり、ファッションの選び方、買い方も変化するとの見方もあるが、昭和と令和のトイレットペーパーの買い占め騒動を見るにつけ、人間の心理の根っこの部分はそれほど変化しないのでは、とも感じる。