百貨店とアパレルメーカーの長年の取引関係が大きな転換点を迎えている。収益改善が至上命題であるアパレルは不採算店閉鎖をさらに加速し、「年間売上高1億5000万~2億円に達しないブランドは一律に統廃合すると通告された」(地方百貨店)など深刻な状況だ。
百貨店とアパレルはなぜ輝きを失ったのか。その栄枯盛衰を描いた経済小説『アパレル興亡』(黒木亮著 、岩波書店)を読んだ。大手婦人服メーカーを舞台に戦後日本のアパレル産業の変遷をドラマチックに切り取る。フィクションだが、実際の事柄、架空と実在の登場人物を織り込みながらのリアリティーは読み手を圧倒する。著者の丹念な取材が際立つ。
衰退の要因は顧客や市場の変化に対応できなかったことに尽きる。成功体験に固執した危機意識の欠如だ。かつての百貨店に対する憧れといった顧客が求める一歩先のライフスタイルからはほど遠い現状だ。どこでも、いつでも買える商品は見向きもされない。
ブランドを打ち切ると言えば、必ず現場から反対論が出る。それは部分最適の思考だ。会社存続のために全体最適を優先するアパレルの経営判断はよく分かる。ただ百貨店の方向性がデジタルを活用したDtoC(メーカー直販)のショールーム化やテナントによる定借化だけでは、その先がない。