映画か漫画のような「ジャパニーズドリーム」に驚いた。ファッション市場は厳しい状況が続き、〝いい話〟を聞くことは少ない。だが、よく取材する小さなメンズブランドが大手企業の役員から評価され、「成長のために出資したい」と持ちかけられたという。
昨年の夏、東京の百貨店で期間限定店を開いた際、業界の有力者に見初められ、とんとん拍子で話が進んだ。立ち上げから10年あまり、地道に地方の個店への卸売りでファンを増やしてきた。デザイナー兼代表が生産現場に精通し、カットソーメーカーで身に着けた小ロットでもコストパフォーマンスの高い服を作れる能力に将来性を感じたらしい。
大手企業は自社の生産背景や営業力、MDなどのノウハウを生かしたプラットフォーム戦略を掲げており、既存の事業に欠ける発想や能力を求めているのだろう。弱小な個人のブランドでも、一緒に成長・拡大したり、新たなビジネスモデルを構築したりするチャンスは巡ってくるかもしれない。
冒頭のメンズブランドの代表は「新たなフィールドで挑戦してみたい」という思いがある一方、安易に大手に飲み込まれることを嫌う。これからの時代、規模の拡大が全てではない。どれだけブランドらしさを貫けるかが大事になる。そうした姿勢にこそ未来を切り開く力が秘められている。