あるセレクトショップのバイヤーが、新規に仕入れる靴のブランドで別注を作ることにした。サンプルを何度か作り、商品ができ上がったとき、先方の営業担当が「これ、自分も買っていいですか」と聞いてきた。
「そういう商品は間違いなく売れる」そうだ。セレクトショップを含め、今や多くの小売店が別注商品を企画する。応じる側もそれが毎シーズンのことなので、ある意味「別注慣れ」してしまっている。
色や素材、ディテールをどう変えるか、各ショップは工夫を凝らし、差別化するわけだ。複数のショップと取引するブランドやメーカーの立場からすると、服であれ、雑貨であれ、どの店がどんな風に仕様を変えるのか、取引の過程で全部知ることになる。
ロゴ売れしているブランドのロゴだけが欲しい場合や、他店で売れた形やディテールを踏襲するケースもある。小売店に卸売りする側も商売なので注文に応じるが、小手先の変化球には内心辟易(へきえき)している。
冒頭のバイヤーが別注した靴は見た目は変えず、防水加工の革を使い、滑りにくいソールを装着して使える場面を広げようというもので、それが雨の日も自社の靴で営業に回りたい担当者の気持ちを捉えた。作り手も思わず欲しくなる別注は、顧客の潜在ニーズに真摯(しんし)に応えようとする小売店の姿勢の証し。だからヒットにつながる。