メンズスーツに使う生地にソラーロというものがある。緯糸と経糸に違う色を使って織るので、光の当たる角度で生地が玉虫色の光沢を放つ。サン・クロスとも言い、イタリアでは夏スーツの定番素材の一つだ。
日本でもここ数年、小売店のメンズドレス売り場でソラーロのジャケットやスーツがぐっと増えた。しかし、この生地には難点がある。夏向けの生地だが、厚みがあり、高温多湿の日本には向かない。
特に今年は猛暑で、インポートブランドもセレクトショップのオリジナルもかっちりしたスーツが売れず、とりわけ生地が厚くて汗をかくと体にまとわりつくソラーロの商品は見向きもされなかった。
イタリア商品を卸売りする企業に聞くと、来春夏向けにソラーロのスーツを発注する小売店がめっきり減ったという。真偽のほどは定かではないが、2度とソラーロは買うな、とトップがバイヤーに厳命したセレクトショップもあったとか。
当たり前だがイタリアだって夏は暑い。Tシャツ1枚で汗をかくほどの猛暑でもソラーロのスーツを着るのは、あちらでも少数派で、そういうおしゃれが好きな男たちに限られる。仕事でスーツを着る機会は減る一方の日本で、マニアックな素材の服を売るには、マスに広がるブームなど期待せず、コアなファンに響く訴求法を考えるほうが良い。