ロンドン・ファッションウィーク・フェブラリー2021は、有力ブランドの発表が相次いだ。ブランドのオリジンを背景に、コロナ禍で感じた新しい世界との付き合い方を模索した新作が揃う。
(小笠原拓郎、ロンドン=若月美奈通信員)
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シモーン・ロシャは「フィジカルなショーがしたかった。でも、コレクションの物語を共有する新しい方法としての映像も興味深いものがある」と、初めてのデジタルショーに踏み切った。結果的には、もしかしたらいつも以上に明快に世界観を伝え、一瞬にして目の前を通り過ぎる生のモデルよりも、細かい手仕事による装飾を見せることに成功したといえそうだ。明るい教会で、誰も座っていない点在する椅子をぬってモデルが歩くショー映像には、モデルが静止したクローズアップ映像が差し込まれ、いつにも増して凝った花刺繍やビーズ、パール使いのディテールが飛び込んでくる。自身が記した最初のキーワードは「ザ・ウィンター・ローズ」。バラのように布地をつまんだシャツやチュールのドレス、ふんわり袖が膨らむ膨れ織のピンクのドレスといったロマンティックなデザインが並ぶ。一方、冒頭にはクロップト丈のレザーのバイカージャケットという、これまでにない強いアイテムが登場して驚かされる。「服の保護性や実用性に目を向け、構築的なレザーをフェミニンなシルエットに落とし込むことで、ハーネスが繊細さを引き立てるような効果を試みた」とロシャ。確かに、様々な花柄地のパッチワークドレスにはハーネスを重ね、足元には極端にごついソールのブーツが合わされている。花刺繍のチュールで仕立てたバイカージャケットといった同じような解釈のアイテムもある。
男勝りの強さと少女のような優しさが交錯し、シーズンによってどちらかへ振れるクリエイションを見せるロシャ。今回のように強さへ傾倒すると、デビュー当初から尊敬の意を隠さない川久保玲の世界が見え隠れする。しかしそれは、あどけないほどにピュアなフェミニニティーやどこよりも教会がしっくりとくる神秘性、大げさなようですんなり受け入れられるボリューム感といったこのデザイナーのキャラクター。それらが見事に融合してより彼女らしさをアピールし、奥深さと前進を感じるコレクションとなった。
アーデムはバレエをテーマにスポットライトが照らされる劇場で、縦横にモデルが行き来する映像を見せた。モデルの中には4人のダンサーもいる。といっても、チュチュのようなドレスが出てくるわけではない。動きを出す手法として多用しているのはプリーツで、ロングスカートだけでなく、テーラードコートの後ろもプリーツになっている。トウシューズの代わりに足元を持ち上げるのは巨大な厚底のバレエシューズ。18年に行ったロイヤルバレエ団とのコラボレーションが出発点で、胸元を開けたボディーフィットのトップからスカートが大きく広がるドレスなどに加えて、稽古着のようなタイトフィットのキャミソールやニットのレギンスもある。シグネチャーのロマンティックな花柄ドレスに、女性の肉体美に賛美を贈るデザインを加え、どこか禁欲的なエレガンスに落とし込まれている。
ロクサンダは自然に包まれた邸宅でのポエトリーリーディングを背景に、リラックスした雰囲気の新作を見せた。肩から袖にかけて大きくボリュームをとったドレス、グラフィカルアートのような動きのあるストライプを走らせたドレスやセットアップといったアイテムが揃う。いずれもロクサンダらしい量感のある伸びやかなラインで見せる。ブラックスーツは袖にスリットを入れてケープのように体を包むディテールに。ポンチョのようにゆったりと体を包み込む白いドレスがリラックスした雰囲気を作り出す。
マルケス・アルメイダはリスボン出身のシンガーのネリーのパフォーマンス映像を配信した。続いて送られてきたルックブックには、このブランドらしいガーリーなムードが漂う。ピンクのタイダイのトップやパンツ、アシンメトリーヘムのランジェリードレス、袖やウエストを部分的に膨らませたトップ、フェミニンなアイテムに軽やかなストリートのムードを閉じ込める。ジャージードレスの裾をひも状にカットしてストリングスドレスに仕立て、サイドゴアブーツと組み合わせる。デニムはミニドレスからシャツセットアップまで豊富なバリエーションを揃えた。全体にリサイクルやアップサイクル素材を多用して、サステイナブル(持続可能性)を意識したコレクション。販売形式は期間限定のプレオーダーのみのDtoC形式となる。サイトによれば3月7日が締め切りで、8月末に納品の予定だ。
ユハン・ワンの布をたわませたフェミニンなプリントウェアは今シーズン、よりシャープなシルエットのアイテムを加え、アンティークな気分に包まれた。伝統的な中国の風景画に描かれた松の木、咲き乱れるバラ、雲。シェープを利かせたコートやマーメードスカートにもこのデザイナーらしい陶磁器のような総柄が乗せされている。ボタニカルな柄に包まれたコレクションだが、ストレッチサテンのパンツに目を向けると、一面にリアルなシカがプリントされている。優しい色と柄に包まれながらも、凛(りん)とした強さを放っている。
カシミは体をゆっくりうねらすダンサーとランウエーショーのモデルが交錯する映像で、アーバンノマドな色調でつづる男女の新作を見せた。90年代グランジと20世紀初頭の芸術家集団ブルームズベリーグループに共通する芸術的な精神革命への誘導を試み、スローガンプリントなどを採用。もっともそれ以上に、ショールやストールを多用した中東的な抱擁スタイルや、ハウンドツースに象徴される英国らしさが際立つ。バイヤスストライプのシャツやハンカチーフヘムのスカートも多い。グラフィカルな大柄の迷彩プリントはイエメンの軍服からの引用。
これまでメンズデザイナーとして新作を発表してきたダニエル・W・フレッチャーが、レディスのデビューコレクションを見せた。ほっそりとしたシルエットのボーイッシュな作品は、トップステッチを利かせたデニムジャケットやニットトップの上に巻く幅広ベルトなどのメンズのシグネチャーを取り入れ、コントラストある配色でシャープにまとめている。巨大な市松模様を描くエレガントなパッチワークドレスは、メンズコレクションの残布で作った。発表はメンズ同様にインスタライブで、アトリエにあるサンプルを手にとって説明する形で行われた。