デジタル時代のフィルムという芸術(宮沢香奈)

2017/01/24 12:35 更新




行く度、新しくて前衛的なものが増えてゆくアムステルダム。「eye Film Museum」は2012年にオープンした映画、映像専門の複合施設で、上映中の映画を楽しんだり、レストランで食事をしたり、ミュージアムショップでショッピングを楽しむことができる人気のスポットとなっている。

そこで開催されていた”Celluloid”(セルロイド)と題したフィルムインスタレーション(2017年1月8日まで開催)を紹介したい。

セルロイドとはアナログ映画のフィルム素材のこと。Tacita Dean、João Maria Gusmão & Pedro Paiva、Rosa Barba、Sandra Gibson & Luis Recoderによる4組の気鋭アーティストが、16mmと35mmのフィルムを使って制作された映像作品が展示されており、広々したスペースがとても贅沢だった。

 


 

中でも印象的だったのが、カンタベリー出身で現在はベルリンを活動拠点とする女性アーティストTacita Deanの作品。壁一面に映し出された映像にコラージュされたビビッドカラーのドットが、ブルー、グリーン、レッドと変化してゆく様がとても美しく、モダンだった。静止画でも良いから購入したいと思った。

これは、2011年にロンドンのTate Modernにて発表された作品の一部であり、16mmフィルムの存続を守るための一環として制作されたものでもある。

他にも、Sandra Gibson & Luis Recoderによる大量のフィルムを歪ませて、16mmプロジェクターで映し出すという斬新な作品も。普段なかなか見る機会のない映写機がフロアーの真ん中に置かれてる演出もよかった。

デジタル化された社会で、古き良きものを大切にしようという博物館的な要素は全くなく、フィルムの持つ独特の表情、質感をそのまま活かし、ノスタルジックな方向にはならない洗練された全く新しい現代アートのように思えた。それでいてどこか懐かしく、実家の居間で観ているような温かい気持ちになる。




 

真っ暗の中、摩訶不思議な映像が映し出される壁をじっと見つめながら、ゆっくりと変化していく画面、フィルムの繋ぎ目が見える瞬間、入り込むノイズ、そういったもの全てに魅了されながら、改めてアナログなものが好きなのだと実感した。

それと同時に、フィルムの存続を願わずにはいられなかった。こういったインスタレーションは世界的に開催して欲しいと思った。

ちなみに、eyeのモダンな設計はオーストリアの建築事務所「Delugan Meissl Associated Architects」によるもの。建築家の国であるオランダではないのだと少し驚いたが、遠方からでもワクワクドキドキさせてくれる見応えある巨大な建築アートはわざわざ足を運んでみるだけの価値がある。

アムステルダムへ行った際は是非とも訪れて欲しい。夏はテラスからの眺めが最高に美しい。

 


 



宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。



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