「ミシンのセッティングと指と手の感覚が命と言える物作り」と話すのは、帽子デザイナーで職人の木島隆幸さん。30年以上帽子作りに向き合い続け、自身のブランド「キジマタカユキ」は9月に10周年を迎えた。記念イベントの一環で、東京・代官山のアトリエの作業を関係者に公開した。
木島さんは、故平田暁夫さんに帽子作りを学び、95年に独立して現在のアトリエを設立。かぶり心地が柔らかく、旬のスタイルを格好良く見せるセンスで、多くのコレクションブランドの帽子も作ってきた。型入れの帽子、ブレードの帽子は、全てアトリエ内で量産している。作業に関わるのは木島さんを含めて6人。生地の柔らかさとシルエットの自然な雰囲気を大事に、全ての工程が手作業だ。
なかでも、ペーパーブレードの帽子には木島さんの経験と人生が凝縮されている。平ひもを手にすると、10分ほどで木型通りに縫い上げる。頭の中のイメージ通りにひもを引っ張ったり、緩めたりと、手の力を調節するだけ。滑らかなシルエットを出すために、ミシンの回転は最も早い設定にし、完成までに手を止めるのは、たった2回。「トップラインのカーブが落ち着く部分とブリムに入る前にクラウンの形を確認する」ためで、「途中で止めると絶対にきれいなラインが出ない」。この手法は30年近く続けて気付いた。35年使い続けているミシンの調子も大事な要素で「他人が使うとその癖が入るから、自分以外には触らせない」。
柔らかなペーパーブレードは、つぶしてもキジマタカユキらしいシルエットに戻る。そこにオンリーワンの強みがある。全て手仕事でも、価格は約2万円。「アトリエ帽子でありながら量産できることがキジマタカユキの特徴。一から作っている姿勢が評価されるが、自分で自分の価値を付けるのは難しい。それに、時間をかけて高いものを作るのは誰でもできる。きれいに早く作るのは難しい。だから、自分の仕事に応じた値段を付けている」と語る。