縫い糸メーカーのフジックス(京都市)は、巣ごもり消費の拡大で手芸に用いる家庭用縫い糸が好調に推移している。今期立ち上がりの4、5月の家庭糸の売り上げは、前年同期比2倍となり、アパレル向け工業糸の落ち込みをカバーしている。「新しい生活様式」の普及に伴って手芸人気が継続するとみており、引き続き家庭糸の販売を強める。
同社の縫い糸売上高に占める家庭糸は、前期で約4割あり、工業糸が6割だった。新型コロナウイルスの影響で自粛ムードが広がった3月中旬から、工業糸が落ち込む一方で家庭糸の引き合いが増加。マスクの手作りをはじめとする手芸ニーズが急増し、手芸雑貨店やショッピングセンターなどに縫い糸の供給が広がった。4、5月は比率が逆転し、家庭糸が全体の8割近くを占めるまで需要が拡大した。家庭糸は国内生産のため、一部の商品では生産が追いつかない状況も生まれている。
家庭糸で特に売れているのがポリエステル糸の「シャッペスパン」シリーズ。シルク糸全盛の約40年前から販売しているロングセラー商品で、長短の不均一な糸を調合して強度を高め、毛羽を減らして適度な光沢がある。合繊糸だけでなく綿やシルクの縫い糸も売れており、家庭糸全般を底上げした。
同社は今期、衣料品の減産傾向を背景に国内外の縫い糸需要の先行きが不透明としており、家庭糸の拡販とともに、中長期的な視点から環境配慮型や導電機能、抗菌機能など特徴のある工業糸の充実に力を入れる。工業糸ではアパレル縫製の東南アジアシフトを意識し、中国法人だけでなくタイ合弁やベトナム法人を足場にASEAN(東南アジア諸国連合)地域への供給を強める。