今年6月、NHKのドキュメンタリー番組で今治タオル生産地のベトナム人技能実習生の労働実態が取り上げられた。今治タオル工業組合は放映後に「当該企業は当組合の組合員ではないことを確認した」としながらも、「当該企業は組合員等の縫製の下請け企業であることから、社会的及び道義的責任があると重く受け止めている」と表明し、早急な情報開示やコンプライアンス(法令順守)のための全員協議会、研修を実施した。その状況は随時、組合のサイトで公開した。同組合の対応をサポートしたNGO(非政府組織)のASSC(ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン)に聞いた。
(壁田知佳子)
人権保護の指針策定
――番組の放映後、どんなサポートを考えたのか。
人権問題が明るみになった際には、早急で真摯(しんし)な対応が求められる。
今回は組合のウェブサイトなどの情報をもとに、人権を保護するための指針となる方針やガイドラインの策定、関連する研修の実施、また、現状を把握するためのアンケート調査や訪問調査などのサポートができると考えた。
さらに、アンケートや訪問調査の情報をもとに、CSR(企業の社会的責任)・サステイナビリティー(持続可能性)活動に関するトレーニングなどのキャパシティー・ビルディングや国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則した労働者の救済システム構築が考えられる。さらに、報道が世間や一般消費者へ与えた影響も考慮すると、改善への取り組みを広く公表し、「今治タオル」ブランド価値向上へつながるサポートも必要だと感じた。
――具体的に実施したことは。
組合が自主的にまとめたコンプライアンスの五つの取り組みに関しては適宜、情報を提供した。主なサポートとしては、8月23日に発表した「人権方針」「サスティナビリティ調達方針」「行動規範」「外国人労働者方針の策定」に関わった。また、各方針や行動規範の策定と関連し、コンプライアンス研修を実施した。
研修は「サプライチェーンを取り巻く社会課題について」というテーマで行い、背景や国際的な潮流について解説した上で、各種方針の策定とその理解と実施、継続的な勉強会への参加の必要性、その活動を外部へ発信することで消費者の行動に変革を与えたり、消費者・取引先からの信頼向上につながるという点を強調した。熱心に聴講してもらったが、今後、方針への理解を深め、活動を進めるための継続的なサポートの必要性も感じた。
――同組合は生産団体でありブランドホルダーでもある。
今治タオルは世界的なブランドであるため、日本企業が求める要求に対応するだけでなく、グローバル企業との取引を視野に入れた管理体制の構築ができるよう配慮した。特に外国人労働者に関連する方針などは、国際社会に対応できうる内容としている。また、生産団体という性格から、多くの組合員の理解を得る必要性があることと、組合の目指す方向性を尊重しながらサポートするように努めた。
世界的な潮流踏まえ
――企業や団体でCSR・サステイナビリティーへの取り組みを周知徹底し、継続・発展させるために必要なことは。
CSRやサステイナビリティーに対する認識や方向性、活動の理解を促し、取り組みの知識と活動を起こす素地を醸成することが大切だ。労働環境を改善・向上するには、世界的な潮流を理解することが必要と考える。世界的な潮流を踏まえて各種方針を策定したのちに、それに基づいた取り組みを理解し、事業との整合性を確認しながら活動することが重要。
その後、各種方針に基づくサプライヤーアンケート調査や訪問調査を実施して重要課題が見つかった場合は、サプライヤーとコミュニケーションを取りながら具体的な改善案を提示して、改善へと向かわせる取り組みが必要となる。新たな重要課題が発見された場合には、各種方針やガイドラインの改訂を行うことも求められる。
長期的には、勉強会やイニシアチブへの参加を通じ情報収集を行うことが重要だ。ASSCはイニシアチブの一つとして、「外国人労働者ラウンドテーブル」を開催している。ラウンドテーブルでは、日本企業のサプライチェーン上の外国人労働者(技能実習生含む)問題に関する知識向上、持続可能な経済活動の実践のための具体的な行動について議論している。
発生後の行動が将来を左右する
労働集約型の縫製業などは、低コスト生産地への移転が他産業に先駆けて進んだこともあり、繊維・ファッション産業は早くから労働者の人権問題に直面してきた。90年代後半にはスポーツブランドのサプライチェーンにおける児童労働や強制労働が表沙汰になるなど、ブランドのサプライチェーンに対する責任問題がクローズアップされた。00年以降もバングラデシュのラナ・プラザ倒壊事故や、綿生産地の児童労働や自殺者の問題など、サプライチェーン上の人権問題は大きなリスクとして存在する。
日本企業に対してもNGOやメディアによる海外生産拠点における人権問題や外国人技能実習生の問題への指摘が近年、相次いでいる。
問題を指摘された企業はダメージだろうが、その後に、CSR調達方針の策定やサプライヤーリストの公表、グローバルなイニシアチブへの参加など、サプライチェーンに対する責任を果たす行動が加速するケースも目立つ。今治タオルの件でも、これを契機に組合内の制度や理解が進んだと思われる。将来にわたって企業やブランドの価値を守るためには、問題が表面化した時にどう行動するかが左右する。
(繊研新聞本紙19年12月16日付)