インド刺繍の服や雑貨を企画・販売するイトバナシ(奈良県五條市、伊達文香代表)は、インドのNGO(非政府組織)と協業し手工芸品の生産者や職人、女性労働者の支援に取り組んでいる。「つくる人とつかう人の暮らしを豊かに」をコンセプトに、手仕事で作られた刺繍製品を販売する。
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初めてインドを訪れたのは11年、大学1年生の時に、スタディツアーで訪れました。インド滞在時に東日本大震災が発生し、被災地支援などの社会貢献活動に興味が出ました。その後も度々インドを訪れ、職業訓練をしているNGO団体と出会い、現地でファッションショーを開催。刺繍と出会ったのはそれがきっかけです。ある時、刺繍をしていた人に話しかけると「刺繍をしていると、自分の故郷を思い出す」と言われました。その方は人身売買の被害者。刺繍は各地域の文化や個性が反映され、異なった特徴を持ちます。そこから刺繍や服作りに興味が出て、インド各地を旅して勉強をしました。刺繍は針と糸さえあればどこでも誰でもできる、平等に開かれているというところが魅力と感じています。現地で、手工芸品の生産者や女性労働者のコミュニティーを支援しているNGO団体「Sasha」(サシャ)とも出会い、支援活動を始めました。
17年にイトバナシを設立し、インド刺繍の製品などを販売する「ししゅうと暮らしのお店」を立ち上げました。手仕事で制作に時間がかかるので営業は月に3日だけ。今後も日数を増やすことは考えていません。商品だけでなく、テーマパークに行ったときのように「イトバナシで買い物をした時の思い出も持って帰る」といった体験による付加価値を重視しています。インスタなどのSNSを見て20~30代の若い人も来ますが、手仕事で作った服を買うのは40~50代の方が多いですね。SNS経由で来店した方はほぼ100%何かしらを購入してくれます。入店時のモチベーションが高いからですかね。今は五條市と広島県東広島市に店舗があり、福岡などにも出す計画です。
販売しているのは手仕事で作られた服やストール、バッグやぬいぐるみなどの雑貨も。中でもアパレル用品はインドらしい柄を使いつつも、日本人が着やすいデザインや色を意識しています。日本人は落ち着いた色合いを好む方が多いのですが、落ち着きすぎると良さが伝わりません。こだわりながらサシャの方と作っています。
今後も他の地域への出店や、期間限定店の開催を計画しています。1日限定イベントなどで反応を見ながら「いいな」と思った場所に出店したいですね。将来的にはインドにも出店し、手仕事の良さを周知したいです。職人の方々への支援も続けます。これまでの取り組みで、子供が学校に通えるようになったなどの効果は出ていますが、労働環境の改善など課題はまだあります。伝統を守るために若手の育成も必要。今後も力を入れて取り組んでいきます。
(繊研新聞本紙24年8月26日付)