《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》地域の交流を発展につなげる

2023/01/30 11:00 更新


高橋さんのアトリエで

 仕事や暮らしの多様化が進み、地方に移住した人の話をよく聞くようになりました。15年から福島県川俣町を拠点に活動する「L'ANIT」(ラニット)の事例を紹介します。

工場や職人の近くで

 ラニットは、スパンコールやキラキラした糸を使ったオリジナルの「ラニットヤーン」を生かした、多彩で大胆なデザインが特徴です。機械編みと手編みを融合します。代表の高橋彩水さんは川俣町出身。東京で大学と服飾専門学校に通い、アパレル企業で働いた後、シルク産地の川俣町に戻って起業しました。「物作りに重きを置いているから産地を拠点にした」そうです。ニット工場や職人の近くにいて、必要な時に素早く出向き、サンプルを見て触れて話せるので、進行がスムーズです。静かな場所で集中して創作したい高橋さんにとって、田んぼに囲まれた事務所にこもり、散歩してリフレッシュできる環境は居心地が良いそう。現在は、都会と地元を行き来し、東京、仙台、横浜、京都といった大都市での催事と自社ECでの販売、セレクトショップへの卸売りをしています。

 地元では異業種の人と交流が多く、地域の人はファッション性に富んだラニットの商品を物珍しく感じているそう。高橋さんは、自ら主催する祭りやワークショップで「ラニットを着て、見て、知ってもらう」機会を作ります。「『こういうのは誰が着る?』と驚かれるけれど、興味を持つきっかけになります。地元の新聞に載るとダイレクトに反応があり、『あそこに行ってみたら?』『この人に会ってみたら?』と世話好きが多いことも地方ならでは」です。高橋さんはできる限り応じます。人の紹介から、ニット製品では使わない機械に触れてアイデアが生まれた経験もあるそうです。また、「ふくしまベンチャーアワード2022」への応募の声をかけられて挑戦し、優秀賞を受賞しました。異業種の審査員の「子供たちの服育に貢献できるのでは」というコメントに、新たな気付きを得ました。

福島産シルクとナイロンを使ったニットタオルは道の駅でも販売

地元に貢献したい

 21年に「天上のニット」というアップサイクルプロジェクトをスタートしました。地域の人との会話が増え、「編物が好きだった親が残した毛糸が今でも押し入れにたくさんある」「亡くなった夫のセーターを捨てられずに大事にとっている」といった思い出を聞き、人に寄り添うお守りのようなものを届けたいと考えたからです。依頼者の話を聞き、思い出が詰まったセーターを受け取って、糸を解いてラニットヤーンと組み合わせ、帽子やスヌード、バッグに作り替えます。夏の約2カ月間、数量限定で受注。完成まで1年待ちの場合もありますが、手にした人に喜ばれ、役に立てていることを実感しています。

アップサイクルプロジェクト「TENJO NO KNIT(天上のニット)」

 「地域の産業に貢献して恩返しがしたい」と高橋さん。最近は、異業種と協業する商品開発や、福島県産シルクのニットタオルなどの事業にも着手しました。都心のセレクトショップでも、地元の産地直売店でも愛されるブランドを目指します。

(ベイビーアイラブユー代表取締役 小澤恵)

■おざわ・めぐみ

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。



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