《未来のジブン》服飾系専門学校で今春卒業予定の学生に聞きました

2024/03/18 06:30 更新


 服飾系専門学校には、専門分野に特化した教育内容にひかれ、目的意識の高い学生が集まっている。高校から服飾を専攻した人、海外経験者や大学既卒者、社会人経験者、海外からの留学生など様々な学生が知識や技術の修得、課題の制作に励んでいる。学内イベントでリーダーを務めたり、学内外のコンテストに挑戦したり、インターンシップや学外活動に参加し、精力的に就職活動に取り組む学生も多い。今春、卒業予定の各校が期待をかける学生に、学校生活を振り返り、将来の夢、未来の自分について語ってもらった。

(繊研新聞本紙24年1月11日付)

ショーの自主開催で成長

文化服装学院 アパレルデザイン科3年 鈴木昌朗さん

第97回装苑賞では佳作2位を受賞した鈴木さん

 静岡の焼津出身。17年に首都圏の大学の経済学部に進学、ファッションと無縁だった環境が一変。「コムデギャルソン」が好きな彼女の影響でファッションに興味が出て、服の作りや歴史を調べ、ブランドに詳しくなった。ユニクロでアルバイトをして、VMDや仕入れの数付けなど大半の仕事を経験。デザイン画を布で立体的に表現する技術職に憧れ、大学卒業後に文化服装学院に入学した。

 1年の基礎科で素材や服作りの基本技術を学び、好きな服の格好良さの理由が分かるようになり、コレクションやブランドの見方が変わった。課題の制作では、作業の意味を理解することを意識し、手持ちの服を見て縫い方の感じや始末の仕方を確認し、知識と技術が身に着くように努力した。

 2年では素材や技法の制約がなくなり、様々な素材に触れて相性のいい糸の番手や針の太さを選び、きれいに縫う技術を磨き、見栄えがいいとプロにほめられる水準に上達。コンセプトを考える課程の重要さも学び、第97回装苑賞で説得力のある企画で最終審査に残った。デニムを重ねてステッチをかけて切り込みを入れ、洗って起毛させ、だ円のスラッシュキルトをつないで立体感を出した作品で、佳作2位を受賞。やる時はとことんやるという情熱が伝わり、成長が表れた作品と評価された。

第97回装苑賞で発表した作品

 一方、「課題を作るだけでなく、各自の作品をショー形式で披露する場を作りたい」と担任に許可と協力を得て、2年次の課題制作終了後に4回のショーを自主的に開催。文化祭のショーでモデルを務めて人脈を広げ、学年末には科を超えたショーを行った。3年の文化祭のショーではモデル長を担当。昨秋は外部で有志の学生の展示会を開き、3月も外部で有志の学生でショーを企画中だ。

3年の文化祭のショーではモデル長を務め、ステージにも登場した

 春からは「ビズビム」で企画・開発や生産管理の仕事をする。「会社で糸からのテキスタイル作りを学び、卒業後も服作りや友人との展示会を続け、もっと成長したい」と意欲を燃やす。

ニットの表現力磨き、世界に

上田安子服飾専門学校 トップクリエイター学科3年 飛野将吾さん

23年6月の学内プレタポルテ展で受賞した作品と飛野さん

 高校は進学校で、服に興味を持つまでは勉強ばかりの日々だった。ファッション好きの友人に出会い、服に興味を持つようになった。ブランドごとに異なる雰囲気を持つことに魅了されたという。特にデザイン画を立体にすることに面白さを感じ、パタンナーを目指すようになった。

 上田安子服飾専門学校のトップクリエイター学科に入学し、服作りはゼロからのスタートだった。1年次の後半から積極的にインターンシップに参加し、経験を積んだことで、表現の幅を広げられたという。自身の服作りの強みは、ニットでの表現だ。「モトヒロタンジ」のデザイナー丹治基浩さんが開くニット教室で、家庭用編み機を使った編み地とテキスタイルデザインを学び、自身の作品に学びを生かしている。

 入学後は順風満帆だったわけではない。「辞めたいとまでは思わなかったが、2年の前半まで、向いていないかもと思ったりもした。なかなか結果が出ず、服を作りたくない時期もあった」と話す。23年3月、楽天ファッション・ウィーク東京23年秋冬で「アキコアオキ」「ケイスケヨシダ」などのショーを実際に見て、服作りのモチベーションが高まった。同年6月に開かれた学内の「第151回上田学園コレクション・プレタポルテ2023」では、複雑な編み地のニットを使った作品で、グランプリを受賞した。続いて10月には、イタリア・ミラノで行われた「ファッション・グラデュエート・イタリア」に参加し、高い評価を得た。

 24年9月から、提携校でもある世界的に有名なモデリスト養成校のAICPに2年間、留学する予定だ。今はフランス語の勉強も頑張っている。卒業後は「フランスにある企業にパタンナーとして入社し、いつかは日本に帰ってきて、自分のブランドを作りたい」と夢を描いている。

ブランド育てパリ・コレへ

マロニエファッションデザイン専門学校 オートクチュールデザインコース3年 市吉泰晴さん

淡路島の自然を竹で表現し、伊のファッションショーで高い評価を得た市吉さん

 「『タイセイ・イチヨシ』をラグジュアリーブランドに育て、パリ・コレクションに出続けるデザイナーになる」と話す市吉さん。卒業後は会社を設立する考えだ。人との縁がつながり、様々なチャンスが舞い込んでいる。

 「少人数校でミシンが一人1台ある」とマロニエファッションデザイン専門学校に入学したが「遊んでばかり」で1年次に留年。「このままではいけない」と友人関係を断ち、服作りに専念した。1年次の進級課題の子供服でグランプリを受賞し、自信がついた。「年下の級友たちが学校に来なよと声を掛けてくれ、担任の先生にも恵まれた」ことも大きい。「没頭すればもっと伸びる」と帰宅後も夜明けまで服を作り、少し寝て学校に行く生活に変えた。

 感情の激しさと向かい合い、日本の文化や兵庫県淡路島出身というルーツを服作りに反映させる。着なくなったきものを染め直して箔(はく)プリントを施すなど、生地作りから楽しむ。淡路島の自然が開発で壊され、「豊かな森が竹林化している」と竹をテーマに作った服が、参加した伊ミラノでのファッションショーで高評価を得た。

 人との出会いをチャンスに変えている。デザイナー、あまづつみまなみさんの誘いで昨年夏、淡路島で開かれたファッションショーに参加。それをきっかけに増見哲が淡路島の廃校を利用し、開業した複合施設で商品の販売や作品を展示してもらうことになった。「ずっと応援してくれている古着店の店主がいて」昨年12月には、大阪・心斎橋の期間限定店に古着をリメイクした商品を並べた。

 卒業後は自分のブランドを育てながら、リメイク商品など様々な切り口でビジネスを広げ、「ゆくゆくはラグジュアリーブランドにする」と意気込む。「難しいことは分かっているが、できると信じている。デザイナーはとがってなんぼ」と夢に向かって歩き出す。

人に喜んでもらえる服作り

中部ファッション専門学校 ファッション産業学科ビジネスマネジメントコース3年 武田莉緒さん

「何事もモチベーションが大切と伝えたい」という武田さん

 小さな頃から洋楽が好き。ユーチューブで洋楽の動画に夢中になり、アーティストが身にまとう服に興味を持った。小学生の時から身長が高く、親の買い物に付いて行っては、いろいろな大人服を試着。「自分もこんな服を作りたい」と思うようになった。丁寧なマンツーマン指導に魅力を感じ、中部ファッション専門学校に進学した。

 洋裁の経験がほとんど無いまま入学した武田さん。同級生は最初から縫える人も多く、「この中でやっていけるだろうか」と不安に思った。妥協しない性格ということもあり、授業後は居残りでジャケットやブラウスなどの実習作品を納得がいくまで縫い直した。

 思い出に残っているのは、応援購入サイト「マクアケ」を活用した岐阜県既製服縫製工業組合とのマッチング事業への参加。全体コンセプト「身近な生活の中で困ったこと」を基に、ケープが不要でファッション感度の高い授乳用ベストの企画書を提出したところ、同組合の縫製工場から依頼が入り、商品化に向けて動き始めた。

 打ち合わせをし、サンプルを作りながら、ウェブページ作成、広報活動と、やることはいっぱい。特に広報では「SNSだけでは足りない」と考え、公園を回って母親世代へ自作のチラシも配り、最終的に目標金額20万円を達成。「大変だったけれど、特許など知的財産権についても学べ、良い経験になった」

 後輩には「何事もモチベーションが大切と伝えたい」と武田さん。学校の自治会長や、コンテストの学生モデルのリーダーを務めるなど、積極的に挑戦して成長してきた。

 来年からは大手アパレルでデザイナーとして働く。「まずは目の前の仕事をしっかりとこなした上で、ステップアップしていきたい。人々に喜んでもらえるような服作りをすることが夢」だ。

将来は商品企画やMDも

織田ファッション専門学校 ファッションデザイン専攻科3年 瀬谷百香さん

何にでも挑戦して成長してきたという瀬谷さん

 小さい頃から絵を描くことが好きで、服の販売員として楽しそうに働く姉を見て、服飾専門学校に進んだ。家庭科でしか使ったことがないミシンのセットの仕方の復習から始め、1年でジャケットや子供服まで縫えるようになり、服作りの基本を習得。2年次に自分でデザインした服を作るようになり、転機になったのがクリエイションの授業だ。設定されたテーマを基にブランドコンセプトの資料を作り、ラフなデザイン画をたくさん描く作業を通じ、自分の好きな系統が分かり、服に落とし込めるようになった。「100体くらい描くと好きな方向性が見えてきて、自分を知り、表現できるようになった」と語る。

 学年末の学内コンテストでは未来という全体テーマから、動物虐待問題を背景に「共存」をテーマに、ニットとプリーツを組み合わせたドレスを制作。独学で毛糸の種類や棒針の太さ、編み目の大きさを変えて編んだ編み地をつなぎ、配色を暗めにし、破れ目を作って動物のつらさを表現。肌の色が異なる様々な人種を表すため生地を手染めし、工場で仕上げたプリーツで人間の思いの絡まりを表した作品で、学年1位を獲得した。「自力でやり切り、初めて目に見えた結果を得られ、成長を実感した」

 2、3年次のパターンオーダーの産学協同授業でも、成長につながると思い2年で運営委員、3年で約60人のまとめ役を担当。「人前で話すのが苦手なので就活前にトップの仕事を経験し、苦手を克服したい」と大役を引き受けた。自ら提案しつつ多様な意見をまとめ、期日に合わせて企画を決め、12月に無事に納品を終えた。先生からは「目標に向かってやるべき課題に一つひとつまじめに取り組み、安定感があって頼れる存在」と評価されている。

 負けず嫌いで何にでも挑戦し、結果を出してきた。3年でも学内コンテスト1位を狙い、独自ブランドを制作中。エイネットの総合職に内定が決まり、将来は商品企画やMDにも携われるようになりたいと思っている。

(繊研新聞本紙24年1月11日付)


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