「感性の仕事」をデータで支援
アーバンリサーチは全社、ECともに成長が続くセレクトショップ。特にマーケティング施策を重要視するタイミングで、芦沢桃子さんが15年に入社した。あらゆる部署でデータを見る習慣が根付いたという。
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データを見る習慣が根付く
金融でアナリストをしていましたが、顧客データ分析に携わったのは初めてです。現業務は販売促進のために、データサイエンティスト(DS)領域の秩序化に注力しています。扱っているのは、ECデータ、ソーシャルメディアや掲示板などのテキスト、POS(販売時点情報管理)システム、会員情報まで全データを分析しています。
例えば、ECは導線分析を行い、値引きが必要のない顧客にはクーポンを提供しすぎないように販促効率化につなげたり、MDや商品を解析してMD分析は予想数式を作ったりしています。MDはまだ人が行う方が精度が高いので、今はABC分析を徹底しています。また、ECと店舗の併買データ分析では、効率的な物流倉庫の商品配分を割り出しています。
SNSテキスト分析は、施策の答え合わせが多いですが、例えば、分析結果から「センスオブプレイス・バイ・アーバンリサーチ」ではファストファッションの打ち出しをやめ、収益改善につながっています。
社内は「データを日々見る習慣」が根付き、業務効率化やコスト削減といったディフェンス面で実績を上げています。根付くには企業風土も重要で、特に経営陣が「知らないものに否定的」ではデータは生きません。
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今は各部署の会議に出席し、創発や企画・仕入れ面での貢献に向かっている。
思い込み減らし細部の無駄省く
データ解析は月初に準備し、依頼されれば期日までに出せるようにしています。長い期間分析できる場合は、インサイトまで抽出し、経営の素早い決断を支援します。
経営陣からは「勝手な思い込みが減った」と評価されています。例えば、店舗スタッフが最も売れていると感じる商品と、データで出ている商品は異なることが多い。人は「好き」という感覚が強いので、その勘違いをなくすだけで、欠品防止につながります。
「データを出して」の依頼とともに、「数値の意味を考える」も浸透したと思います。提出データ以外の数値も見るようになって、細部でムダが省け、利益につなげられています。
ただ、この3年で商品企画など攻めの分野では大きなインパクトを出せてはいません。これからは創発やMDで、新たな収益を上げる段階です。いま私が各ブランド企画会議に参加し、「意思決定の過程を言語化・数値化」を進めています。この基盤を作って、MD精度を安定化できれば、各ブランドの収益に直結できると考えています。
とはいえ、アパレル業はやはり「感性の仕事」で、特に「何を仕入れるか」はデータで判明はしません。DSは「データで人をサポート」することが大きな役割だと思います。
(繊研新聞本紙9月26日付)