《明日につながる人作り》思いやり、褒めあう文化を

2018/08/13 06:30 更新


 労働人口が減る中、企業は優秀な人材を獲得して生産性を上げつつ、従業員には生き生きと長く働いてもらうことが重要だ。モチベーションや生産性の向上、離職率の低下などに欠かせないのが従業員満足度(ES)。これが高ければ、顧客満足度(CS)も向上すると考えられている。

 待遇や福利厚生、職場環境以外のユニークなESの取り組みは、ファッション業界にも広がっている。

(安部裕美)

 「ミズイロインド」「マーコート」を企画製造・販売するマザーズインダストリー(大阪市)では、スタッフが自発的に、他の部署や取引先に感謝や励ましのメッセージを送ったり、ロールプレイングや清掃活動などを実践している。

 メッセージは店舗宛てが中心。例えば、物流部門は納品する商品と共に、物流部門のメンバーの集合写真と日頃の感謝の気持ちを手で記した手紙を送ったり、EC部門はセールを励ますメッセージボードを持ったスタッフ一人ひとりの写真を添付したメールを送ったりしている。

 本社総務や東京ショールームは、オフィスの写真を添え、職場の様子をメールで伝え、製造部門は、取引先の工場から届いた感謝のはがきをメールで紹介した。店舗は1カ月に1度のペースでこれらを受け取り、手書きの手紙には手書きの手紙、メールにはメールで返信し、交流や連帯感を強めている。

 本社スタッフは、笑顔やあいさつ、来客対応などをブラッシュアップするため、毎朝のミーティングでロープレを行い、東京ショールームはビル管理会社の定期清掃があるものの、ビル全体をきれいにしようと、他のフロアの共用部分や玄関の清掃を毎朝している。

マザーズインダストリーの本社スタッフが店舗へ送ったメッセージ付きイラストカード

誰かを幸せに

 最大の特徴は、制度やルールではなく、スタッフが自然発生的に始めた点。メッセージは写真付きや手書きで、表情や気持ちが伝わる工夫もある。活動は社外への報告も明文化もしていない。笹野信明社長は「何だか会社やお店の雰囲気がいいよねと、社風や空気を評価してもらえた時がうれしい」という。

 「会社のレゾンデートル(存在意義)は、誰かを幸せにすること」。03年の設立当時からこうした取り組みはあったが、スタッフが200人を超える組織に拡大したため、昨年末にスローガンとして「スマイル&サプライズ」と名付けた。人を笑顔にするための活動の積み重ねが、大きな感動へとつながり、自分たちにも返ってくるという考え方だ。このスローガンを機に活動は活発化している。

 並行して取り組むのが、「ハートシェアリングプロジェクト」だ。一定期間の売上高の一部を熊本などの震災被災地や、飢餓や紛争などから子供たちを守る国際組織に寄付し、新しい支援案がスタッフから次々と出されているという。7月からは「チャットワーク」アプリを導入した。部門単位で成功や失敗を報告、褒めあったり、正したりするのに役立てたい考えだ。

良い行動に着目

 子供服SPA(製造小売業)のブランシェスには、スタッフ同士で褒めあう文化がある。背景にあるのは、14年から始まった取り組み「ハッピーレター」だ。自分がうれしいと感じた、他のスタッフの言動や行いを専用用紙に記入し、随時、総務部宛てにメールまたはファクスする。例えば、あるスタッフが客からこんな接客で褒められた、同僚のこんな取り組みがうれしかった――不満や問題でなく、良い行動に着目したのが特徴だ。

 昨年は平均で月78通、6月中旬までに総計約3100通が寄せられた。代表例を総務が毎月10通選び、経営会議で2通に絞り込んで社内掲示板に載せる。その後、褒められたり、感謝されたりしたスタッフに用紙が転送される。「お客様はもちろん、他人への心遣いや思いやりを持つことが根付き、褒めあう文化を築けたら」との狙いがある。



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