ファッション企業の自社ECのリプレース(システムの見直し)がうまくいかず、サイト停止に追い込まれる事態が相次いでいる。大手セレクトショップなどのEC構築で多くの実績があるecビーイングの林雅也社長は「ECのリニューアルは渋谷駅の改修工事などと一緒。急に全面刷新というのはハードルが高く、フェーズに分けてパーツごとに慎重に切り替えていく必要がある」と指摘する。
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自社ECのリプレースが増えている理由は二つある。一つは自社ECが、オムニチャネルを実現するための全社的な事業に発展していること。もう一つは既存のシステムの老朽化やサポート切れに対応する必要が出てきていることだ。この二つが同時に発生しているケースも多く、課題を一気に解消しようと自社ECをリプレースする選択肢が出てくる。
しかし、ただでさえEC売上高の規模が拡大しているなかで、実店舗とも連動した全社的なシステムにリニューアルするのは難易度が高く、それなりに時間がかかる。まずは老朽化しているところから改修するといったように、ステップを踏んで取り組むことが失敗を回避するポイントになる。
最も危険なのが、経営陣が他社のECを見て焦り、早くそこに追いつけと現場にむちゃな指示を出してしまうことだ。
「ビームスのような(先進的な)ECサイトはすぐにまねできるものではなく、何年もかけて一歩一歩着実に進めてきた結果であることを理解してほしい」
実際、ECを何度もリニューアルしてきたアパレルの担当者は「リプレースは非常に難しい作業。気が遠くなるような長い道のりだ」と語る。
それを踏まえた上で、「アパレルとベンダーが両輪でプロジェクトを進める」ことが必要だ。オムニチャネルを実現するには店舗のPOS(販売時点情報管理)のほか、会員データベースや在庫、物流など様々な情報システムをつなぐ必要があるため、マルチベンダー化が必須になる。ベンダーとしては既存システムとのすり合わせや調整にどこまで対応できるのか力量が問われる。またアパレル企業は、各システムに精通したデジタルリテラシーの高いチーム体制を敷かなければ、部署横断での改修作業や実際の運用に対応できない。
一方、こうした自社ECのリニューアルなどで知見を高めたEC事業部の人材は企業にとって大きな資産になる。EC事業部はウェブマーケティングから物流まであらゆるシステムやデータに接する機会があり、デジタルリテラシーを最も高めやすい。そこで育成した人材を各事業部に再配置すれば「DX(デジタルトランスフォーメーション)の原動力になる」と指摘する。